[コメント] 東京裁判(1983/日)
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東京裁判については、柄谷行人とともにこう云っておけばよい。出鱈目な裁判だったが、なかったよりははるかにマシだったと。
作者は馬鹿ではないらしく論理は一貫しており、和歌などたらたら詠んで戦犯を救済したからには、南京大虐殺について「国民ひとりひとりが背負わなければならない十字架」との意見を吐かざるを得なくなる。この責任者という観念の欠如は一億総懺悔と同じ論法であり、結果、私たちは中国へ安心して旅行もできない。とても迷惑である。
東洋の思想の伝わり難さという論点が出てくる。しかしそれならなぜ、被告は罪状認否で(武士らしく !) 有罪と云わないのか。アメリカの弁護士に止められた、とナレーターは慌てて弁解する。万事がこの調子だ。あそこで有罪を認めていれば、どうだっただろう、と想像力を飛翔させるのが映像作家というものではないのだろうか。
本作の美点は、これも戦犯救済の一環であるが、昭和天皇免責についてのウエッブとキーナンの対立をしつこく取り上げたことだろう。一方、最悪なのは瀧川教授はじめ証人の証言をほとんど取り上げなかったこと。これらを取り上げれば、作者はもぐら叩き並に滑稽な揶揄を続けるか、もしくは作品の論理一貫性を放棄することになっただろう。本作の欠陥のひとつは、余りにも短時間であることだ。
本作はダーバンもガンジーも小さく取り上げるが、時代に枝葉末節と切り捨てられ、映像化における東京裁判史観とやらの扱いに偏向した類型を残した。ラストに米兵から逃げ回るベトナムの少年の、有名な写真が映される。アメリカの無茶苦茶は決して認められない。しかし、ベトナムの少年と日本の戦犯を並べる姿勢も無茶苦茶である。
最近、梅崎春生の戦記ものを読み返し、兵隊を土嚢並に扱う軍隊の非情に目眩を起こしている。梅崎がこの戦犯擁護映画を観たらどう思うだろうと、考えずにいられない。
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