[コメント] 戦火の勇気(1996/米)
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新しいタイプの戦争映画ですね。
わたしなんか、戦争映画っていうとプラトーンとか ディア・ハンターのイメージが強くて、”人が人を 殺す極限状態”の悲しさ、恐ろしさをひたすら描いてゆく ものだと思ってました。ですが、これはちょっと違うみたいです。
この映画では”敵”(イラク軍の人間)を倒す(殺す)こと には疑問を投げかけていません。平和と安全を護る戦いは せねばならぬ、という太い軍人の信念で貫かれています。
では、なにがこの作品のテーマかというと、「理想と現実のゆがみ」 ではないでしょうか。すべての士官は紳士の鑑であり、兵士たちは 忠実に勇敢に戦う。そう信じ、そうあるべき戦場において、 実際は、戦友を誤射し、仲間同士が争い、兵士は上官を見捨ててしまう。 現実は矛盾だらけなのです。ですが。
ですが、決して偽りなどではなく、決してウソで汚してはならない物が唯一つ ある、とこの作品は断言しています。それこそ、”戦火の勇気” なのです。悲惨に混乱した状況でのサーリングの機転。自分の過ちを告白する サーリングの高潔さ。部下を見捨てず我が身を犠牲としたウォールデンの責任感。”戦争”というもの自体が そもそもとんでもない矛盾(わたしはそう思っています)なのですが、その矛盾 から目をそらさず、その矛盾の中で精一杯に正しい(と自分が信じる)選択をする。これが 兵士のあるべき姿なのでしょう。
平和主義のひとには、この作品に納得いかない所が多いでしょう。 わたしもそうです。(たとえば、イラク兵に対するサーリングの発言。 「ブタ野郎」などと人間を呼んでいい場合はごくごくまれにしかいないはず。) しかし、戦争が起こってしまうというどうしようもない現実の中では、 ”戦火の勇気”こそが我々の持ちうる最高の良心ではないでしょうか。
最後に。ワシントンポストの記者とサーリングの妻。このふたりの存在 が作品においてかなり大切であると思う、と書いておきます。 立派な軍人もただの人間であり、たくさんの人の理解や愛が かならず必要だ、ということを気づかせてくれるからです。 特に奥さんは...ほんの少ししか画面に出ませんでしたが... ラストシーンに彼女がいなかったら、わたしの心がこれほど すがすがしく洗われることはなかったでしょう。
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