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[コメント] 暴走機関車(1985/米)

英雄と讃えられている人間がいながらも、真の英雄がいない映画。登場するのは、動物以下の男と世間知らずのボンボンと、何も出来ない女性作業員だ。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 この作品に好感が持てたのは、やはり超人的な人間がいないということに尽きる。凡百のB級アクションであればスティーブン・セガールのような人間が出てきて列車を止めるのだろうが、本作には肉体も精神もマッチョな奴は存在しない。いるのは、動物以下の男と世間知らずのボンボン、たまたま乗り合わせて状況を把握出来る(ただし解決は出来ない)女性作業員だけなのだ。ましてやこのボンボンは前科者が社会でどれだけ白い目で見られるかを知らず、レイプしておいて法律が悪い云々などと抜かすトンチキだ。

 だがそんな彼が褒め称える重犯罪者マニーも、結局は意気地無しでしかなかったという皮肉な事実。先頭車の運転室に行くか行かないかで三人で大喧嘩した後、沈黙してしまったあの瞬間が忘れられない。女性作業員は行けないことが分かっている、ボンボンのバックは怖くて行けない、そんなバックを散々けなしていたマニーも手を怪我しているから行けない……。その場にいる三人全員が自らの無力さに気付いてしまい、どうしようもなくなっているという事実を突き付けられてしまうあのシーンは実に印象に残った。加えて、彼等だけがそうなっていると思いきや、鉄道を運行している側もまた、3人を救えなかったことを嘆くというシーンもある。「これだけのテクノロジーがあるのに、なぜ……」

 そう、本作には英雄なんか誰もいない……はずなのだが、一人だけそう思い込んでいる人間がいる。そう、刑務所長のランキンだ。ランキンからすれば脱獄した二人は極悪人で、自分の意思に従わない人間達を自らの手で完膚なきまでに叩きのめそうとしている。そういった手法が気に食わないからこそマニーは彼に訴訟を起こしたのだが、それでもなおランキンの手が緩まることは無い。挙句マニーに対して、自らヘリにぶら下がり決着を付けようと舞い降りてくる。こんな行為は、他のB級アクション映画で主人公がやりそうなことではないか。

 そんなランキンに対し、最後に一人で戦いを挑むマニー。英雄気取りの男に、動物以下と罵られた男が立ち向かうのだ。何の為にか? 本当の英雄になりたいからか? いや違う。彼がこの脱獄でやりたかったのはランキンへの復讐だ。命をかけてでも、彼の英雄的なプライドをズタズダに引き裂いてやりたかったのだ。最後にマニーは、バックと女性作業員が残っていた機関車と、自らが乗っている先頭車を切り離す。動物以下の男が最後に見せた、己の目的の為に誰も巻き添えにしないという行為は、ある意味、マニーが人間へと戻った瞬間なのかもしれない。

 ……で、最後に一言。仮に雪が積もっているからといって、時速120キロというスピードで走る機関車の上から飛び降りるというのは余りにも危険すぎやしないだろうか? 着地した地点の雪が、必ずしもスキー場のようなパウダースノーであるという保障はどこにもない。第一、劇中のあの状況では飛び降りるという選択肢など出てくるはずが無いのだ。「飛び降りればいい」というコメントがいくつか散見されるが、先頭車に行くのにも臆病がるようなボンボンには出来そうに無いし、マニーも「腕を怪我している」とかいって逃げそうだ。女性作業員は「危険過ぎる」といってやりそうもないし……

 そう思って調べてみたところ、鉄道から飛び降りる一番いい方法というのがあったので紹介する。最後尾の車両まで行って、進行方向とは逆向きで飛び出した直後、くるりと180度向きを変えて受身の姿勢を取るのがいいという。ただしこれはあくまでも理屈であって、実際にやってみて助かるという保証は無い。

 この映画に英雄は要らないのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)山ちゃん[*] KEI[*] けにろん[*]

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