コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] アルマゲドン(1998/米)

あの真正面の整列ショットこそ、この映画の素晴らしさを象徴するものです。
TM大好き

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







たいていの場合、興行的に成功を収める作品は、多くの大衆を引きつけるだけの映画技能上の基礎がしっかりとできています。2〜3時間もの間、観客の目をスクリーンにひきつけておくのは、並大抵のことではありません。そのためには、映画史が長い間をかけて培ってきた基礎的ノウハウというものを無視してはならないはずです。

アルマゲドン』にしても、掘削士たちのスカウトから、彼らを宇宙飛行士にさせるための訓練に至るまでの前半部と、実際に宇宙に飛び立ち、小惑星を核爆破させるまでの後半部との二部構造となっていますが、そこに見られるストーリーラインの対位法は見事なバランスです。前半部は緩やかな時間軸を用いて観客を緩やかに感情移入させる一方で、後半部は速い時間軸になり、障害−克服のシークエンスを繰り返すことで、観客に激しい感情を抱かせることに成功している。こうした対位法的なストーリー構成は、娯楽映画を作る上での古典的なセオリーですが、こうしたセオリーをあっさりと無視して安易にストーリーを組み立てている点が、現代邦画がつまらない原因の1つではないでしょうか。

さらに、この『アルマゲドン』が巧みだと思わせる点があります。中盤、掘削士たちが宇宙船に乗り込むシーンがありますが、ここでカメラは、彼らを横一列に並べて歩かせ、そこで真正面からの整列ショットを撮っている。この真正面の配置は、主人公たちへの親近感を強める効果を持つものとして有名な撮影セオリーで、それなりに的確な挿入と言えるでしょう。

しかし、重要なのは、ラストシーン近くで、再び同一配置による整列ショットを挿入している点です。ここでは、既に多くの乗員が死んでおり、彼らは横一列に並んでいるものの、ところどころにスキマができている。このスキマの存在によって、観客は、小惑星をめぐる激しい任務の結果を再度思い知らされ、その感傷にひたるのです。この差異を伴った反復シーンは、まさに映画技能上の基礎がしっかりしているからこそ編み出されたものではないでしょうか。

前半部においては一緒に戦う仲間を集め、後半における「障害−克服」の過程で多くの仲間が死んでいくという構成は『七人の侍』を思い起こしますが、その「仲間の死」を示すものが、『七人の侍』においては墓標であり、『アルマゲドン』ではスキマとなります。そして、相対的に見て、いずれの表現が優れているかとなれば、ボク自身は後者に軍配を上げたくなるのです。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (5 人)モノリス砥石[*] moot リア[*] 緑雨[*] ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。