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[コメント] 吸血鬼ゴケミドロ(1968/日)

前に「ごけみどろ」とタイプして変換したら「後家深泥」と変換してしまい、ちょっと笑った。どろどろの人間関係を表してるって点は共通してるかも(笑)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は日本においては「特撮」に分類されることが多いけど、実際はこれ、むしろホラーに分類出来ると思う。閉鎖空間でパニックを起こす人間関係と迫り来る怪人の恐怖、そして描写の気持ち悪さと、ちゃんと基本を抑えている。むしろノリとしてはハマーフィルムか『遊星よりの物体X』(オリジナルの方ね)っぽい。

 ところでホラー映画で一番見応えがあるシーンと言われたら、どう考えるだろう?モンスターの存在感とも言えるし、迫り来る恐怖やショック・シーン、あるいは可憐な少女の絶叫(?)と答えることも出来る。

 だけど、私なりには、極限状態における人間関係こそが一番の重要な要素じゃないかと思う。モンスターのいるいないはあんまり関係なく、人間同士のいざこざや、普段仮面をかぶって、外面を良くしている人間の内面が、極限状態になって表面を剥がされて現れる所。その点にある。映画とは人間を描く事。単体のドラマとして充分魅せるだけのものがあって、本当の良質なホラー映画だと思っている(その辺をあんまり考えずに作られたB級ホラー作品は、これはこれで楽しいものがあるけど)。

 本作においては、確かにモンスターは登場するんだけど、それがあくまで普通の人間というのがポイント。普通の人間だったら怖くないのか、と言えばさにあらず。無茶苦茶怖い!単に無表情で迫ってくるだけでもの凄い迫力があるし、「あいつは敵か、それとも人間か?」という周りの人間の恐怖感も演出できていた。彼が迫ってくる中、人間関係が崩壊し、エゴむき出しになる醜い姿が暗い気分にさせられて良し(?)。

 それと本作ではこの時代においてはもう一つ画期的な要素を劇中に入れることが出来た。最近の映画でこそそう言う描き方はされていないのだが、当時の映画だと、いわゆるガイジンの描き方が非常にステロタイプになってしまっていた。彼らは大概アングロ・サクソン系アメリカ人で(見た目にアメリカ人だと分かるから)、彼らは完全な“善”の存在か、あるいは全く逆に“悪”の存在として見られていた傾向があった。これは映画人が悪いというのではなく、多分そう言うのを視聴者の方が望んだのだろうけど…そう言った極端な描かれ方しかされてない傾向があった。しかしながら、本作で登場するホーランはヴェトナムで死んだ夫を思う、寂しさや、人を気遣う繊細さ、そして最後にやっぱり助かりたいと思って銃を突きつけるような心の弱さを現していた。ガイジンも普通の人間なのだ。と言う当たり前のことなのだが、それをこれで出せたというのは凄い事じゃない?

 人間も良く撮れていたと思う。モンスターと化した高英男の存在感は凄いもので、大変失礼な言い方だが、あの顔で迫られたら、絶対逃げたくなるって。そして周囲の人間達がどこまでも醜くなるのに対し、主人公の二人があくまで自分を崩してなかった所も、この映画を巧くまとめる役割を果たしていたと思う。

 特撮に関しては作りものっぽさが出ているけど、充分に気持ち悪い。特に高英男の額がぱかっと割れ、スライム状のゴケミドロが体内に侵入する様はまさに悪夢。恐怖演出は充分だし、あの救いようのないラストも凄い。

 ちなみにこのゴケミドロ、元々はちゃんとした(?)モンスターとしてデザインされており、毛むくじゃらで三本の手を持つデザインを持っていたそうである。そっちは使われなくて良かった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ゆーこ and One thing[*] kiona kawa[*] いくけん 茅ヶ崎まゆ子[*]

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