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[コメント] 無防備都市(1945/伊)

国民の団結
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







イタリアにおける第二次世界大戦は、勃発時はムッソリーニの率いるファシスト対、レジスタンスを含む市民の闘い.ムッソリーニ降伏後は、イタリアに進駐したドイツ軍、及びドイツ軍率いるファシスト対、レジスタンスを含む市民の闘い.詳しくは分からないけど、この様に理解すべきだと思う. イタリア国民が敵味方に別れて戦ったのであり、この意味で、イタリアを日本と同じ敗戦国と考えるのは間違い.例えばアリナ、日本人の感情からいくと裏切り者一色になってしまうが、この映画では単にイタリアの一市民、つまり戦争さえなければ、こんな事にはならなかった、と言った意味合いに描かれている.それは、拷問にあって死ぬマンフレディも同じ.フランチェスコも、そのフランチェスコを追って撃ち殺されたピナも、脱走兵も、神父も同じと言ってよく、皆、戦争は嫌だ、戦争さえなければ、こんな事にならなかった、と、訴えている.

パン屋の襲撃シーン.略奪行為はどの様な理由をつけても、良いわけがありません.けれどもそうしなければ、飢えて生きて行けない.だから戦争は嫌なんだ.悪いことを分かっていながらやらなければいけないから、戦争は嫌.

子供のテロ行為.一見それが正しい行為に見える.けれども少し考えてみれば、良い事か悪いことか.やはりどの様な理由があろうとも、子供がこの様なことをしてはいけない.子供までこの様なことをしてしまう、だから戦争は嫌.

アリナ.麻薬とレスビアン、衣服が欲しかった、裕福な生活がしたくて、結局マンフレディをナチスに売ってしまったが、この女の描かれ方は憎むに値しない単に愚かな女、こう思える.ドイツの将校が、「俺たちは憎まれものだ」、と自己批判を始めるけど、同じ部屋にアリナが居合わせる.確かにアリナは許されないものを残すが、それでも憎むな、ドイツ将校の自己批判は、悪いのは俺たちだ、イタリア人の側から言い換えれば、憎むべきはドイツなのだ、ということになる.

脱走兵.この人はイタリアの正規軍なのでしょう.ドイツ軍の支配下でイタリア人民と戦っていた.自分の間違いに気づいて脱走したのだけど、脱走兵の汚名はいつまでも付きまとわれる.この意味で、勇気のある人みたい.この人、拷問を恐れ自殺してしまう、その姿をいかにも臆病に描いているけど、本当に臆病な人なのかどうか.

マンフレディの拷問のシーン.私はこの苦しみを理解できない、こう言っておきたいと思う.この拷問の苦しみを、本当に理解したのは誰かと言えば脱走兵であり、拷問が死ぬより苦しいこと、そう思ったから自殺してしまったのです.そして、彼は自分の知っている秘密をきちんと守り通したと言える.一見弱い人間に見える描き方なのだけど、実はそうではない、拷問に絶え抜いて死んだマンフレディと変わらない、強い人間と言えそう. マンフレディの拷問は、死ぬより辛いこと、理解できない苦しみ、二度と繰り返されてはならない悲劇であるのは言うまでもないこと.

神父の銃殺.「死ぬのは難しくない」「生きるのが難しい」、よろめきながら護送車から降ろされる神父は、付き添いの牧師にこう言う.一斉に銃を構えた兵は、皆、故意にねらいを外したが、結局はドイツの将校に撃ち殺される. 「死ぬのは難しくない、生きるのが難しい」、少し言い換えると、殺すのは簡単だ、だけど生かすのは難しい.もう少し言い換えれば、生かすのは難しいけど、殺すのは簡単だ.神父の銃殺のシーンは、神父の言葉通りに描かれている.

ローマの解放と共に撮影が開始された.まだイタリア北部では戦闘が続いているが、やがてこの戦争も終わるだろう.けれども、殺しあいを始めるのは簡単、戦争を始めるのは簡単だけれど、終わらせるのは難しい.

この映画を観ていて、ドイツ人とイタリア人がはっきり区別できなくて.最後に神父を銃殺する兵士はイタリア兵だと思うのだけど、皆がねらいを外した.神父の最後の言葉は、「神よ、彼らを許したまえ」.

イタリア人民同士が、敵味方に別れてイタリアの国土の上で戦った.結果、多くの悲しみと憎しみを生んだのだが、誰もが、決してこの戦争を望んだのではない.憎しみを捨てて、団結して平和な国を築いて欲しい.(生きるのが難しい.殺し合った者同士が憎しみを捨てるのは難しい事なのだけれど)

金網ごしに見守る子供たち.子供は成長を意味する、つまり未来を表すと言って良い. もうすぐこの戦争は終わる.だけど平和を守ることは困難なのだ.その困難を乗り越えて、二度とこの様な悲劇を繰り返さないで欲しい. 「死ぬのは難しくない、生きるのが難しい」、神父の言葉は、団結と平和を訴えかけている.

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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