[コメント] ハロルドとモード 少年は虹を渡る(1971/米)
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赤の他人の葬儀に参列し、自殺の真似事を繰り返すバッド・コートが「死に魅入られている」というのは偽である。それは正確に生の希求の表現にほかならない。これは逆説ではない。というのは、彼が繰り返す自殺の真似事、つまり自殺をしたように「見せかける」行為は、実際に自殺を実行するよりも遥かに周到な準備と高度な技術が要求されるからだ。たとえば冒頭の首吊りはどうか。確かに頸は縄に絞められているように見える。しかし、具体的にどのようなトリックが施されているのかは明らかにされないが、実際のところ彼の命に別条はない。頸部の圧迫は見せかけであり、呼吸は正常に保たれている。それが本当に自殺を果たすことよりも「技術的に」困難な技であるのは明らかだろう。コートは毎回の自殺芝居においてその困難を見事に克服している。
また云うまでもなく、彼の自殺芝居は誰か(多くの場合母親)に見せるためのものだ。ただしラストシーンにおけるそれは事情が異なる。自動車が崖から落下するのを目撃する者はいない。だから、その「自殺」は最も切実だ。安直な云い方になるが、それによって彼は過去の自分と決着をつける。しかし、むろん、それはルース・ゴードンとの決別と同義ではない。そこで彼は「バンジョー」を奏でている。映画の感動はあくまでもバンジョーに在る。
『血まみれギャングママ』『バニシング・ポイント』に続くジョン・アロンゾの三作目。わずか三年後には『チャイナタウン』が控えています。なんとも順調かつ立派なフィルモグラフィですね。まあ私にとっては『がんばれ!ベアーズ』と『ブラック・サンデー』のほうがよほど重要ですけれども。
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