[コメント] 鏡(1975/露)
内容の複雑さを一切気にさせないほど映像に力が宿っている。タルコフスキー作品の中でもとりわけ自伝的なだけに批評するのが大変だが、簡単に説明がつく話よりも断然心に焼きつく。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭の失語症の少年への催眠術。強風に揺られる草原とそこに佇む母の姿。静かに音を立てて燃え上がる火事の炎。雨の中で髪を洗う母の姿。消えてなくなったコーヒーカップの跡がゆっくりと消えていく様。戦争に関するドキュメンタリー映像の数々。暗闇の中でじゃがいもに垂れるミルク、それを映し出す鏡。にわとりに斧を下ろす際の母の顔、ベッドから宙に浮いた母の姿。風に揺れるカーテン、鏡に映し出されたミルク瓶を抱える少年の姿。またもや強風に揺られる草原・・・・・・
これらの視覚イメージが強烈に脳を刺激する。徹底的な一人称で語られるこの映画は時間軸通りに進むこともなく、現実と過去や夢が交錯し、非常に複雑である。タルコフスキーの自伝的要素も強い。彼自身の少年時代の記憶を模索し、現在の状況と照らし合わせ、かなり私的な部分もある。他のタルコフスキー作品同様、平和を求めるメッセージも垣間見れる。しかし、そういった複雑さを伴う内容以上に、視覚イメージが圧倒的だ。視覚イメージとそれを強調する風、水、火の音によって、映画に引き込まれてしまう。「幸せに生きたかった」という主人公の台詞と、「生れるのは息子と娘どちらが良い?」という問いを聞くクライマックスは、答えがわからなくても映像に納得させる力があうように思う。
的確な分析をできる自信は、ない。けれども、ここまで視覚によって感情を刺激されては、思わず傑作だという感想を口にしてしまう。
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