コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 遠い空の向こうに(1999/米)

ボクらの夢に水を差すのは、いつだってオトナたちの都合なのだ。あるいは青春映画の美徳について。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 カッチリと手堅い磐石の青春映画としてほとんど完璧な出来だと思った。炭坑ならではの設定も生かされているし、父親との対立から和解に至る展開も定番ながら丁寧なキャラクター造形で魅せられる。というか、「宇宙への憧れ」と「オヤジ越え」という2大テーマは、男の子なら共感せずにはいられないところ。

 ただ、気に食わないのが最後にちょろっと挟まったスペースシャトルのカット。これが「彼の努力は素晴らしい成果を上げた」というメッセージに見えてしまって、釈然としない気分になった。

 言うまでもなくロケット工学は兵器に応用される。応用というより、兵器をつくるがために発達した学問だといっていい。もちろん、ホーマーやクエンティンが殺人の片棒を担いでいるなんて言う気はないのだけれど、スペースシャトルだけ見せるのはちょっとフェアじゃない気がした。彼らの研究が「全面的に人類の利益につながった」と言うなら、それは欺瞞じゃないだろうかと。

 というか、そもそもスペースシャトルとこの映画は関係ないんだ。彼らが大人になって何を成し得て何を成し得なかったかなんてのは、この映画には一切関係がない。後にNASAに行ったヤツも牧場主になったヤツも“あの頃は等しく美しかった”というのが青春映画における最大の美徳なわけで、あそこにスペースシャトルの映像を挟み込むことで結果的に彼らのひとりひとりに貴賎のレッテルを貼ってしまったような気がするのだ。「NASAに進んだホーマーは偉大で、それ以外は残念だった」と。

 んーまぁ、そこまで斜で見てしまう自分もどうかと思うけれど、良質な青春映画が最後の最後で「成果を為した」ことを称えてしまうのは、なんだかオトナの都合だよなぁなどと感じ、ちょっと寂しい思いだった。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)Myurakz[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。