[コメント] 救命士(1999/米)
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手を替え品を替えつつも繰り返しひとつの物語を語りつづけるタイプの作家であるスコセッシが監督を務めた各作品の主人公たちは、やはり基本的にはほぼ同一人物である。ハーヴェイ・カイテルやロバート・デ・ニーロや、今ではレオナルド・ディカプリオであったりするところのその「同一人物」だが、ニコラス・ケイジこそが最も演じるにふさわしい俳優であったと今でも思っている。いや、ケイジが『バッド・ルーテナント』を経た現在、その思いはより強められている。簡単に云えば、追い詰められたキャラクタを演じたときケイジほど面白い俳優はいないということ。仕事はうまく行かない。私生活など存在しない。患者や同僚は変人ばかり。ケイジの追い詰められ芝居の面白さを爆発させる準備は万端に整っている。
それについては好調時のスコセッシらしく細部が非常に充実している、と云い換えてもよい。まずは先にも述べたようなグッドマン、レームズ、サイズモアの芝居の仕立てがそれで、特にレームズのDJ&牧師気取りと、サイズモアのノリのよい暴力性が面白すぎる。水飲みたい病患者マーク・アンソニーの逃げ足が毎回めちゃ速いのも笑う。このようにほとんど不条理な状況に置かれればケイジがパトリシア・アークェットに「天使」を見てしまうのも道理である。また、救急車で大クラッシュ事故を起こしたはずなのに、翌日「事故報告書出しとけよ」と云われるだけで済んでしまう。このように平然と現実らしさを飛び越えてしまうあたりの絶妙な呼吸も演出家の調子がよい証拠だ。どういうわけかこの感覚を毎回は出せないのがスコセッシの残念なところだと思う。
ロバート・リチャードソンの凝った照明は夜のニューヨークの風景を「セット」のように見せてしまう。この迷宮感覚は昔から一貫してスコセッシの美点だ。
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