まず、行動規範。将軍の弟を斬らねば武士の一分が立たず、主君をお守りせねば武士の一分が立たず、お互い私怨はなけれども武士である以上斬らねばならぬ、このメンタリティはどこまで今のご時世に理解されるであろうか？

この映画には、きちんとした日本人の所作が当たり前のようにちりばめられている。畳に座り、上下をわきまえた会話をし、ふすまを開ける。近年の時代劇でふすまをノックして入る等という場面に遭遇したことがあるが、そのような論外なことが起こるほど我々は「和式」というものから遠ざかっているのかもしれない。

当たり前のように作ってある時代劇で、アクションや殺陣だけ見れば他にもすごい映画はあろうが、将軍の弟を無勢で暗殺する、という不条理な話を良くまとめてある佳作である。

一点だけ、一番武士らしく見えて「武士とは死ぬことと覚えたり」を体現しているような西村晃が、一番じたばたした最期だったのが意図的だったとすれば、最高に皮肉の利いた効果になっていると思う。