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[コメント] どら平太(2000/日)

「さら(リーマン)平太」

同じ原作を扱った『町奉行日記・鉄火牡丹』という映画がある。59年製作の三隅研次監督・勝新太郎主演によるこの映画では、ハマリ役の勝新が遊び人「どら平太」を嫌みのない愛敬で好演していた。

転じて、この映画。役所広司にはさすがに勝新のような愛敬はない。状況を柔らかく呑み込んで仕事をし遂げていく粋な切れ者というよりは、飄飄として何を考えているか判らないがキレると怖い昼行灯というカンジ(ことの解決にやたらと金子を持ち出すし、直ぐに腕っ節に訴えているような気もする)。脚本の造りも、一本立て映画として官僚批判の主題をになっている所為か勧善懲悪の硬さがあり、小平太やワルどものキャラもそれに不自然に引っ張られているように思える。

まあそれでもこの映画、やはりそれなりに楽しめる映画ではある。(昨今真っ当な娯楽時代劇に飢えてる所為もあろうけれど。) 脚本に細かな気配りの妙があるからだろうし、役者がそれをちゃんと肉付けしている。役所は、勝新とはまた異なる趣の当世風のキレる男、「どら平太」ならぬ「さら(リーマン)平太」を好演しており、あの刹那に見せるニタァリ笑いにはゾクっとさせられる。「上意!」とか、「新任町奉行、望月小平太。またの名をどら平太!」なんて、無意味に文句が焼きついてる。声の張り具合が気持ち好い。

総じて、今の私達が観て「面白かった」と言える映画にはなっていると思う。でもそれだけになってしまっているのも確か。企画を踏み越えて時代劇のエポックとなりうるような映画ではない。プログラム・ピクチュア時代の『町奉行日記・鉄火牡丹』と比べて考えると、今娯楽時代劇をつくるのって難しいんだなとあらためて思う。動機がなく、ノウハウもない。(こんな比較は反動的かもしれないが、この映画に新しい可能性が見出せるわけでもない。)

ちなみに、「さら(リーマン)平太」というのは某邦画専門サイトの掲示板で素人の方が使っていた表現です。あまりにもピッタリなので使わせてもらいました。役所さんはこんな役(キレる(←いろんな意味で)中年サラリーマン)ばかりのような気がします。(でも、なんか好き。)

(評価:★3)

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