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[コメント] 上海から来た女(1947/米)

MAGIC.
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市民ケーン』よりも明確に斬新性が感じられる。「この映画が作られてから何10年も経っているが未だに追い抜けた映画はない」的評価があるとするのならば、私はこの映画(と『カリガリ博士』)を推す。それぐらい一頭地抜けた唯一無二の作品だと思う。

多種多様なオリジナリティ溢れる映像が満載の映画。

そのオリジナリティが遺憾なく発揮されていたのは以下の2場面。つまり水族館のシーンと鏡の部屋のシーンだ。両者には共通して言葉では表現できない「不思議な感覚」がある。もちろんストーリーを背景とした人物の心理描写の反映させる演出なのだろう。ただ、そんな小難しいことを抜きにしてそれらの「視覚的面白み」は抗し難く魅惑的だ。私が好きなのはここで、当時のハリウッド映画の中では独特で、かといって奇を衒っているわけでもないある種の自然さがある。如何に多くの現代映画がこの視覚的面白みを表現しようとして失敗し続けているのかを考えれば偉業である。

***

コントラストの強いモノクロ画面を基盤とした映画だ。つまり、映像的に見て白と黒の対比が鮮明で灰色のような中間色の割合が少ないということです。私はそこまで玄人じみた映像美学や観察眼を持っているわけではないが、本作の映像は好みにあっていた。当時のハリウッド映画(に限らずモノクロ映画でも)は結構画一的で工夫に欠ける印象があるので、少なくとも独自性はあるだろう。リタ・ヘイワースの透き通るような肌や豪奢な髪色が絶妙に引き出されている。

中華街の登場も興味深い。ニュートラルな意味で、アメリカ映画に中国を始めとするアジアが舞台となったりすると、それだけで既に一つの面白さが生まれる。『月光の女』や『π』でもいえることだが、製作者も明らかに「異郷」が作品に与える「特殊効果」を狙っているはずだ。

以上のようにこの作品は多様な映像表現を遂行し巧みに統合できている点に於いて上質で且つ完成度は高いと思う。観ていて本当に面白い。私にとっては充分な「娯楽」作品だった。「市民ケーン」のコメントでも述べたのだが、私は映画に感動をはじめとする純粋なストーリー的要素をそこまで重視しない。求めているのは作品全体に流れる「作風」みたいなものだ。

何もこの作品のストーリーに興味がないといっているのではない。後半の裁判所のシーン以降は展開がスピーディそしてサスペンスフルで、そこだけ切り離してみても充分高い評価に値するものだと思う。ヘイワースは自分の趣味にはぴったり合わないものの古風な美しさは確かに感じる。ただ、映像面での独自性もそれらと並行して作品を貫き、ときに技(美)術が心理を結び付いている点は見逃してはならないだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶[*] ジェリー[*]

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