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[コメント] 大怪獣ガメラ(1965/日)

大人達にとってはガメラは忌むべき厄災に他ならなかったが、少年にとってはガメラは“チビ”の生まれ変わりだった。冷戦に凍える世界が、同時に少年のおもちゃ箱となってしまう…怪獣映画の醍醐味。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







湾岸戦争時、油田に立ち上がる火柱をブラウン管越し眺めながら、そのバカげた光景をかつてどこかで見たような気がしたものだったが、これだったかもしれない。

ガメラ誕生の作。コンセプトはゴジラ越え。インパクトのみをもってそれを果たそうとした勢いたるや半端でない。平成ガメラ・シリーズにおいて突き詰められ活かされた“失われた大陸の住人”という設定だけを言い訳に、原爆を目覚まし時計代わりにするは、高圧電流喰らってますます元気になるは、腹が減って燃料喰らうは、どう考えたってやりすぎ。ゴジラとの比較をどう表現したら良いだろう。カルトなたとえで申し訳ないが、こんな感じだ。少年ジャンプにラオウというかつて存在し得なかった最強のキャラが登場してきた。ケンシロウよりも格段に強そうで、これより強いキャラは出てくるはずがなかった。しかし、それでも、彼より強いキャラは産み落とされた、“強さのインフレ”を代償に。それが、孫悟空やベジータだった。強さを表現するために、星まで消し飛ばしてしまうのだが、彼らはラオウより強そうに見えたであろうか?

ドラゴンボール』には『ドラゴンボール』の面白さがある。この『ガメラ』の面白さは、『ドラゴンボール』のそれに近い。

他の多くの特撮映画もそうだが、何の予備知識も無く、この映画を見ることが出来たらどんなに楽しかったろう。ガメラは飛ぶ! というのは周知であったため、インパクトは半減であったが…

ガメラは亀だ! だから、ひっくり返せば、こっちのもんだ! 冷凍弾で凍らせて、ダイナマイトでひっくり返せ!

よーし、成功だ! 見ろよ、手も足も出ないとはこのこった! 人間様をなめんじゃねえぜ!

…って、…あれ?…え?…えええええ〜〜〜〜〜?!?!?

悶絶する人間どもを後目に舞い上がっていくガメラ!

…あ…あ…あー! あのUFOはガメラだったんかい!

このシーンの面白さったらない。

しかし、どんなに荒唐無稽に徹しようと、一方では、時勢と無関係でいられないのが特撮映画。折しも時代は冷戦真っ直中、冒頭のスクランブルなど、オモチャにしか見えないのに、なお緊張感が漂っていて、秀逸。大映特撮もやるもんだと思わせる。ガメラが織りなす火の海も、単なる娯楽映画として片付けられない終末観のようなものが感じられる。だが、そんな大人達が大きな問題に関し苦悩する世界は、同時に亀しか友達がいない少年がその友達を捨ててこいと言われて苦悩する世界でもある。少年にとっては、冷戦なんかよりも亀の方がよっぽど重要なのだ。

…実は、ここにこそガメラの本質がある。世界をめぐる大人と子供の感じ方の違い、大人の地動説と子供の天動説の分裂が、そのままガメラに対する大人と子供の感じ方の違いに反映されているのだ。これこそ、平成シリーズに至るまで脈々と受け継がれているガメラの生命線なのである。

総じて考えるなら、初代『ゴジラ』に匹敵するアイデンティティは獲得し得なかった。ガメラの存在が結果的に冷戦を終結させるという物語の結末を、おめでたいととるか、微笑ましいととるか、なども意見の分かれるところと思う。しかし、その辺も含めて、やはりこの初作が一番ガメラらしいガメラと言えるんじゃないだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ぽんしゅう[*] ロボトミー[*] アルシュ[*] 荒馬大介[*] ゼロゼロUFO[*] ボイス母[*] 甘崎庵[*]

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