[コメント] 大いなる幻影(1937/仏)
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昔の欧州、戦争は貴族同士の傭兵を用いる分捕り合戦だった。ナポレオンが市民兵の徴兵制を始め、戦争は国家間のものに変貌した。本作でシュトロハイムとピエール・フレネーのふたりの貴族が回想するのはナポレオン以前の戦争なんだろう。壮大な話ではある。
脱出前は相当退屈。ジュリアン・カレットの喜劇は型に嵌っていて、アイロンでシャツに穴開けちゃったみたいなギャグは恐ろしいほど下らない。仮装ダンスもこれが『フレンチ・カンカン』の監督かと疑念を抱かされる出来だ。どうなっているんだろう。
本作、捕虜脱出映画としてはほとんど嚆矢らしい。ディータ・パウロの未亡人が逃亡者ふたりを匿う件は本作の白眉で、ルノワールらしい二度の窓使い(一度はキャメラが窓枠を越え、二度目は軽くパンするとブランコが現れる)が美しい。ジャン・ギャバンが意味もなくモテるのは阿呆らしいが。
しかし、シュトロハイムにせよパウロにせよ、本作で敵に優しいのはドイツ側ばかり。仮装パーティ中に突然フランス国家合唱しても許されてしまうし。これらはナチスへのメッセージだったのだろう。相手はこんな話の判る相手ではまるでなかった訳だが、世紀の大馬鹿に生真面目に一席ぶったのは天晴としか云いようがない。日本でも当然検閲で上映禁止。ハーグ条約など守る気が全然なかったことの証だろう。公開されていれば黒歴史が幾らかでもマシになっていたんじゃなかろうか。
映画で「幻影」は二回、いずれもこの大戦はもうすぐ終わるという希望的見通し(二度目は最後の戦争とさえ云われる)を否定してそれは幻影だと語られる。
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