[コメント] タイタス(1999/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
シェイクスピアの戯曲中最もショッキングな「タイタス・アンドロニカス」を映画化した作品。シェイクスピア作品は映画映えするため良く映画化されるが、その中でも恐らく最初、よりによってこの作品が映画化。しかもミュージカル『ライオン・キング』の舞台を作り上げた(映画版は悪評紛々たる作品だが、私はディズニー・アニメ中最も完成度が高いと思っている)ジュリー・テイモアの作品とあって、とても楽しみにしていた作品だった。
とにかく原作の「タイタス・アンドロニカス」はカニバリズム、不倫、肉体切除、(暗喩的に)近親相姦まで扱うという無茶苦茶な作品だけに、それをどう仕上げるかワクワクしながら劇場へ。
最初の映像が流れた時、頭には疑問符が山程浮かんだ。これ、まだコマーシャルが続いてるとか?それとも別な映画じゃないの?だって、この作品は帝政ローマを舞台にした作品。なんで冷蔵庫や電気仕掛けのオモチャが出てくるの?
見事なつかみだった。そこから怒濤のような映像美に酔った。何せ時代考証など全く無視し、しかもそれが見事な程に調和している。銃や装甲車、バイクなどが次々に出てくるのみならず、皇帝位を主張するサターナイアスとパシアナスは選挙カーに乗って登場し、S.P.Q.R(「元老院及びローマ市民の皆さん」という意味の頭文字を取ったもので、ローマでは演説をする時必ずこの言葉を用いる)と飾りたてたマイクを通して選挙演説をする!もう、心の中で「うわあ」と叫び声が止まらず。無茶苦茶微妙なバランスを必要とするこの描写に完全に酔った。(これを「悪趣味」という人の方が多いんだろうな。きっと)
ここに出てくる台詞は皆戯曲からそのまんま抜粋したもの(ちゃんと確認した)であるが、それがこの無茶苦茶な描写の中にあって全く違和感なしに入り込んでくる。あのオーバーなシェイクスピアのノリが全く古くさく感じ無いどころか、無茶苦茶はまっていた。残酷で、そして美しいこの復讐劇が、映像美をもって迫ってくる。
タイタス役にアンソニー・ホプキンスを起用したのは大正解だろう。真面目で固いな軍人が、身も凍るような試練を経た後、復讐の鬼と化す。後半あっちの世界にイッてしまったタイタスの鬼気迫る迫力!最後の楽しそうな笑みはまさにベスト・ショット。殆どレクター博士(っつーかそのままじゃん)!この作品で注目し始めたアラン・カミングの妙にべとーっとした演技も気に入った。
ストーリーが分かっていたのに始まりから終了まで完全に気が抜けず、見終わった後、無茶苦茶くたびれた。私の持論「映画は快楽装置」。この作品こそその栄誉あるポジションを差し上げよう。
ところでこの作品を観たのは丁度リドリー・スコットの『グラディエーター』と『ハンニバル』の間にあるのだが、妙にそこでこの2作品との関連性を感じてしまった。同じローマを舞台とした『グラディエーター』、そしてホプキンスを主役にした『ハンニバル』(連続して腕を切り落とすホプキンス(笑))。その作品の間にあって、一番好きなのがこれなのだが…
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (4 人) | [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。