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[コメント] BROTHER(2000/日=英)

「BROTHER」に込められた「MOTHER」への愛。
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 デニー(オマー・エプス)が、山本(ビートたけし)から預かったバッグを開けるラストシーン。賛否両論あるエンディングだが、私はこのシーンを観たとき、涙が溢れて止まらなかった。その理由は良く分からなかったのだが、今考えてみると、兄弟愛以上の何かを感じ取っていたからなのかも知れない。

 実はそう思ったのは、ビートたけしの書いたある本を読んで、劇場で観たときは全く知らなかったエピソードが、このラストシーンに隠されていることを知ったからである。

 漫才ブームという追い風を受けて、ツービートの実力がテレビで認められ、たけしの月給が100万円を超えた頃から、母親のさきさんは、ことある度に、たけしに電話をかけ、「小遣い無いからちょうだい。20万。」などと言って、お小遣いをねだっていたそうだ。

 たけしは、「人間苦労すると、やっぱりお金が命になっちゃうのかな?」などと思ったりもしたものの、育ての親への恩と思い、お小遣いを催促される度、必ず渡していたという。

 『BROTHER』がLAロケにクランクインする直前の99年8月、たけしは、そのさきさんを亡くしている。『BROTHER』は、そんなたけしの気持ちを語るかの様に哀しみに満ちているが、実はそれだけではない。

 さきさんが亡くなる数ヶ月前、多忙なスケジュールの間をぬって、たけしは療養中の軽井沢を見舞いで訪れている。その帰り間際、たけしは、お姉さん経由で、さきさんから変な包みを渡されたそうだ。その包みは、たけしをビックリさせるものだった。

 何とそれは、たけし名義の郵便貯金通帳と印鑑だったという。しかも、その通帳には、たけしに覚えのある数字がずっと並んでいたそうだ。

 51年4月×日 300,000、51年7月×日 200,000・・・

 ことある度に、さきさんが小遣いという名目で、たけしから受け取っていたお金は、そっくりそのまま、貯金されていたのである。その総額は何と1千万円近くになっていたという。

 生前、さきさんは「芸人なんて、いつ落ち目になるか分からない」と、愛する息子のことをいつも心配していたらしい。たけしは、そんな話を人づてに聞いたことが頭を過ぎり、涙が止まらなかったという。

 『BROTHER』のラストシーンは、間違いなく、このエピソードをもとにしたものである。私がこのラストに涙が止まらなかったのは、おそらく、デニーと山本の兄弟愛の裏に込められた最愛の母さきさんへの感謝と愛情を知らず知らずのうちに感じ取っていたからなのだと思う。

 ちなみに、このエピソードはビートたけし著の「菊次郎とさき」に収められている。とても感動的な話なので、ファンならずとも興味を持った方は、是非一読して頂きたい。そして、その後でもう1度、『BROTHER』を観て欲しい。きっと少し違った印象を抱くはずである。

(評価:★5)

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