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[コメント] 君の名は(1953/日)

自由恋愛に怯える川喜多雄二の唯我独尊な迫力が凄い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前半は大雑把、ダイジェスト気味に話が進む。冒頭の岸惠子佐田啓二が空襲から逃げ回る件は全体を支えるとても重要な件なのに、実にあっさりしている。撮影も弱い。50年代の大作にしてはチャチ過ぎる(ずっと40年代後半の映画と勘違いしていた)。月丘-須賀-淡路の件など、2部で大フューチャーされる前振りなのだが、1分ほどに詰め込まれてこれだけではさっぱり意味が判らない。ラジオ聴いていてストーリー知っている人向けなのだろう。なんとかしてほしかった。しかし後半は話の腰が落ち着いて面白くなる。

三部作通して岸は没個性、ぐちゅぐちゅ泣いてばかり、暗いばっかりで魅力がない(快活な淡島千景野添ひとみの好感度に全然及ばない)。科白まで殆ど棒読みに近い。まさか岸が下手なはずはなく、これは演出意図に沿った造形だろう。真知子は云いたいことも云えずに浜口親子の無茶苦茶だがそれなりに筋の通った弁論(「建前が大事ですから」)に圧倒されるばかりの被害者であり、新民法が根付かぬ同世代の女たちの想いを背負い女湯を空にさせた。この事実は重いものがある(ラジオドラマから人気だったのだから佐田啓二目当てばかりじゃあるまい)。

戦前なら自ら実家に帰るなんて出来なかっただろう、そうか新しい時代だから厭な場所から逃げてもいいんだと、多くの女性に勇気を与えたのではなかっただろうか。云いたいこと云えない性格ってのも、華麗に反論するヒロインよりリアリティがある。これはメロドラマの常道で別に本作のオリジナルじゃないが、メロドラマの方法自体がいいものだと思わされる。

時代思潮である自由恋愛に怯える川喜多雄二の妄想の迫力がいい。この人に「感情移入」して見ると面白味が増す。三角関係の嫉妬だけが恋愛を発動させるプルーストが想起される。市川春代のマクベス夫人みたいな共犯関係(「この子はお坊ちゃんですから」)にも凄味がある。「冬彦さん」はメロドラマの肝だ。選んでカスを掴んだという大方のご婦人の嘆きがこの戯画の背景から聞こえてくる。

レスリー・スピーカー付オルガンの響きが何とも効果的。氏家も後宮も今に続く少女漫画趣味なキラキラネームなのが面白い。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)[*] ぽんしゅう[*]

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