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[コメント] 崖(1955/伊)

なにかと散漫だがフェリーニらしさが端々で輝いており、嫌いになれない作品。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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いいキャラ出しているブロデリック・クロフォードの詐欺師の本筋はフェリーニらしいチャップリンの継承だろう。日本映画の義理人情ものにも近い。しかし、改心を垣間見せてそれから転落させる手際は似て非なるものがある。このクライマックスの意図的な混乱、札束を返した返さないで引っ張るのは、同時代のハリウッドのノアール作などでもよく観られる手法だが、たいがい上手くいってもらず、本作もどたばたしちゃった印象。これはもう単純に、金は返したで美しく終わらせるほうが良かったのは明白で、名作になり損ねている。なぜそうしなかったのかは、作家の無意識の問題で、興味深くはあるけど。

フェリーニの諸作との類似に目を引かれる。詐欺師の生態は『青春群像』その後という趣があり、多数の人物が交錯するパーティの件は『甘い生活』以降の手法の萌芽がある。リチャード・ベースハートジュリエッタ・マシーナが夫婦という設定は『』のサイド・ストーリーになっており、もしふたりが一緒になってもこんな具合なのか、という苦さが残る。なんでこの二人をもう少し追いかけなかったのかな。最重要なのはラストの崖の件で、次作『カビリアの夜』のラストでジュリエッタが晒される崖と重層化されおり、本作は『カビリア』のための長いプロローグのようだ。ただ、この崖がなぜか撮りきれていないのは不満。農家や貧民街の優れた撮影があるのになぜだろう。

フェリーニの俳優の顔の選択は本作でも抜群。とりわけブロデリック・クロフォードの娘と小児麻痺の娘が素晴らしく、彼らしい聖処女の主題が定着されている。ふたりの背景である都市と地方との対比は図式的だが、時代そのものが図式的だったのが見事なロケ撮影がら伝わってくる。散漫な作品だが、このふたりの件の鮮やかな印象ゆえ憎めない。

最初と最後の、あなたの庭で宝石発見の詐欺ネタは微妙、祈祷料を貰ってドロンということなのだが、それを現金でなく宝石の一部で支払いますと云われたらどうするつもりなのだろう。主題曲は傑作で、登場人物の鼻歌やパーティーの演奏でもこれが使われるギャグはいいもの。なお鑑賞は108分版。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)太陽と戦慄 3819695[*]

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