[コメント] 蝶の舌(1999/スペイン)
映画を見終った人むけのレビューです。
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一つ一つのエピソードがそれぞれ印象的で美しいし、やはり何よりもラストシーンに衝撃を受けました。
幼い子供が誰かに石を投げて罵るのに必要な理由は、お父さんやお母さんがそうしてたから、周りの大人がそうしてたから、というだけで十分なのだと思う。相手が自分の恩師であっても。両親が「あの人は悪い人よ」と口で言ったくらいでは「そんなことないのに」と疑問を抱く余地があるかもしれないが、問答無用で罵って石を投げるという衝撃的な場面を見たら、もう疑問の余地もなく「あの人は悪い人なんだ」と思い込んでしまうでしょう。
だから、あのとき主人公が石を投げたのは何か考えがあったわけではなく、お父さんお母さんが投げているから、というだけの理由だった、と解釈しています。そこに子供も無邪気さと、無邪気さゆえの恐ろしさ(月並みな言葉ですが)があらわれていると思う。だけど、主人公の中には先生と過ごすことで得た様々なことがあって、それが無意識のうちに石を投げた瞬間に溢れ出して、ああいう言葉という形になったのではないか。あの言葉が口から出たということによって、もう最初の彼はただの無邪気なだけの少年ではなくなったのだ(それがいいことか悪いことかはわかりませんが)、ということなのかなぁ、と。
主人公の成長物語、という面もあると思いますが、私が強く感じたのは政治のことなど何もわからないし理解出来ない子供が、知らず知らずのうちに政治に巻き込まれ、加害者になることもあるのだ、ってことです。戦争で死ぬなど被害者側になる作品は多く描かれているのですが、加害者になるというのはなかなか描かれないのではないでしょうか。もちろん、加害者とはいっても彼らはある意味で政治や大人の被害者ではあると思います。だからといって、両親も自分の身を守るにはああするしかなかった、という面もあるわけで、単純に彼らが悪い、ってわけでもないでしょう。
私も外国の政治のことなど何も知らず理解しようともせず生きていましたが、社会的に力を持っていない子供ですら加害者にまわることがあるなら、自分だって知らないうちに加害者になっていることは大いに考えられるし、間接的に考えていけば実際そうなのではないか、と。せめて、少しでも国際政治を理解しようとしなければ、と思うきっかけになった作品です。
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