最近の石井輝男監督作品には、パッションが決定的に欠如している。

俺が石井エログロ作品に求めるもの、観たいと欲しているものは、異常者の「行為」そのものではなくて、その異常な「行為」を為す時、為さねばならぬ時に、行為者の内面から放出される暗い情念、パッションなのである。

監督のかつてのエログロ作品には、そういうパッションが満ち溢れていて、有名な『奇形人間』のラストなんかその典型的な現れだが、彼の描く人物は、犯罪者にしても自殺者にしても受刑者にしても倒錯者にしても、一様にギラギラした人間臭さを放っていて、初心な俺をとことんまで魅了してくれた。早い話が、メチャクチャな話にも、論旨の定かでないオムニバスにも、有無を言わさぬ説得力があったのだ。

しかし、最近の監督の作品からは、どうもそういうものを感じ取れない。復活後の監督の作品は一応、全部観ているが、どうも年々悪くなってきているような気がする。これは単なる制作費の問題ではない。演者の力量も関係ない。

一部の熱狂的なファンの為に繰り返される舞踏。再登場するキャラクター。それが悪いというつもりは毛頭ないのだが、今や完全に様式化されたその手にシーンから、嘗てのパッションを感じとることは、不可能である。前作『地獄』に於いてはまだ、宮崎勤をモデルとしたシーン、殺人者らが切断されるシーンなどにその名残を感じることが出来たのだが、本作にはもはや、カケラすら無っていなかった。

仏作って魂入れず、という諺があるが、最近の石井作品はまさしくそれ。地獄作って苦悩入れず、と云い直した方が適当か。

踊らされているのは、むしろ監督の方なのではないか？過剰な馴れ合いの中で何か大切なものを失くしてないか？

なんとか情熱を取り戻して、もう一度、本当の地獄を見せて欲しい。そして腹の底から笑わせて欲しい。