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[コメント] ハッシュ!(2001/日)

橋口監督からの前向きな激励賛歌。そして、片岡礼子サマはやはり良かった。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 他の方々もすでにコメントされてますが、片岡礼子が非常に良い。予告編を見たときから彼女の印象が強く、かと思ったらキネ旬などでやはり高く評価されていました。そんなわけで彼女に期待して映画を見たかったのです。渋谷シネクイントでは『メメント』のロングランの影響でかなり待たされてから、ようやく観賞できたのだが、待たされた甲斐ありました。片岡礼子=藤倉朝子と図式が立つほど自然な演技をしていた。というか、自然な存在、一人の人間として見えた。演技だけでは出せないような感じを見受けた。片岡礼子が良かったのと同時に、藤倉朝子という人間も良かったのだ。

 他の俳優に関しても高得点。田辺誠一高橋和也のゲイカップルは対称的な性格だが、それぞれがしっかりキャラクターを表現していた。特に栗田勝裕の優柔不断な感じは今回の田辺誠一に非常にフィットしていた。また脇役の秋野陽子冨士眞奈美といったベテラン勢の活躍も見逃せない。どちらも怖いくらいの存在感がある。秋野演じる栗田容子が朝子に「あなたは母親にはなれません!」と怒号するシーンなど、非常に重たく感じられた。メインも脇も、この映画は役者に恵まれてる。

 内容の方は、まず言えるのはその自然さ。劇的な展開などほとんど見せないが、日常生活を表す自然さ、それが良い。橋口亮輔監督は自身が同性愛者であるためか、ゲイの描写も自然。例えば、直也が「俺達の世界は恋人と長続きするのも稀だし、一人で生きる覚悟がある」と言うが、ゲイの人は受け入れられたいと思いながらも、自らアウトローな存在になる傾向がある。全体的に見て細かな部分まで現実的な描写に見えた。あくまで、ゲイを自然な存在と描いているので嫌味な部分が全くない。朝子のキャラクターにしても勝裕や直也と同じ視点で描いているし、普遍的な人間の姿を描く点で本当に自然である。

 その中でコメディーとしてしっかり楽しませてくれる。朝子、勝裕、直也の3人を見ていると、見ていてすごく楽しくなった。笑いもありえない展開で爆笑させるようなギャグとはまた別の種で、普段の生活からポロっと出てきたような笑いだ。しっかり台詞から作り込まれているのだろうが、あくまで日常的な雰囲気は損なわれていない。コメディーとして観客を楽しませつつも、普通の日常生活から人間の普遍的な気持ちを描こうというスタンスがしっかりしていて良い。

 後半、今までの楽しい雰囲気から悲しい雰囲気に少し変化する。これは少し気分的に落ちた。勝治が死に(大丈夫そうだと聞いていたのに、突然激変して死ぬ辛さは非常に大きい)、川辺で3人で歩きながら、勝裕が突然泣き崩れる。この時、その方向に進んで終わるのは避けて欲しいと思った。結果的にそうならず安心した。ラストシーン、朝子の引っ越し祝いで3人鍋を囲み、朝子が勝裕だけでなく直也にも長いスポイトをプレゼントする。とにかく楽しくて暖かい。直前の川辺のシーンも後から思うと効果的だった。いろいろ辛いこともあるけど、とにかく前向きに生きていこうよ!という強いメッセージを感じた。朝子の台詞で「人間関係諦めてたけど、2人と会って実はまだ諦めたくなかったんだなぁと思った」とあったが、誰しも孤独に生活することなんて望んでないのだ。時には一人でいたい時もあるけど、やはり信頼できる人と過ごすことは大事だろう。勝裕の台詞では「優柔不断なのが俺なんだよ」とあったが、自分のことをしっかりと見つめることも大事だろう。とにかく諦めずに前向きに生きようというこの映画は、落ち込んでるときに見たら励ましてくれそうな映画だ。

(評価:★4)

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