[コメント] マイノリティ・リポート(2002/米)
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スティーヴン・スピルバーグは、現実に犯罪を犯したわけでもない「未遂」犯をしょっぴくことが可能なこの世界をディストピアとして描いている。フィリップ・K・ディックの原作にはここの判断に留保があるらしいのだが(読んでない)、スピルバーグは未来において殺人を犯すであろう未遂犯を捕らえる社会を、国家権力が思想犯を片っ端からブタ箱にぶち込むオーウェル的なやりすぎ管理社会として描いている。
この映画、2001年の911テロを受けてブッシュ政権下で発効された愛国者法に対するスピルバーグからのリアクションに見える。いや本当は911より前から準備していたのだろうけど、公開のタイミングから言ってもアンサーになっているし、スピルバーグのような作家には少々の予知能力はあるものだ。社会の流れ、空気を敏感に察知して「炭鉱のカナリア」の役目を果たしたのだと、勝手に思い込んでいる。
スピルバーグらしい断片は見てとれる。アガサや息子のショーンは純粋無垢なイノセンスで、トム・クルーズはこれを必死で守らねばならぬ。スピルバーグがいつもやるアレだ。にも関わらずいまひとつ乗れない映画になっているのは、スピルバーグが中途半端にゴラクしているせいだ。
ヒッチコックやベルイマン、キューブリックの引用が目につくし、ロケット背負った警官とトムがアパートの外壁をガリガリガリ、なんてあからさまに『天空の城ラピュタ』のロボット兵だ。未来ごっこにノリノリになってオモシロを投入しすぎた結果、お話がどうでもよくなってしまった感じがする。
悪役として登場した政府の犬コリン・ファレルが実はそう悪くなくて、信頼していたマックス・フォン・シドーが突如ヒールターン。いかにもノワールものっぽい展開だが、これがどうテーマに絡んでいるのかが全然ピンとこないのだ。結局トムが殺人を犯すと予知されたその瞬間の葛藤を超えるドラマはなく、後半はダラダラと成り行きを眺めるだけになってしまった。
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