[コメント] まぼろし(2001/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
夫は登場シーンから既におかしかった。疲れ気味で妻に促されなければ何も行動を起こさない。ボーっとしている。薪を取りに行った野で木の下の無数のアリ。 映画の冒頭シーンの殆どが、プチ鬱病を体験した人には身にしみて解ると思う。
私はこの映画を見て『男と女』を思い出しました。夫亡き後新しい男との愛情が芽生えるまでの葛藤を描きつつ最後に「愛は勝つ」でした。映画に限らず芸術作品は数限りなく「愛」を描き、求め、模索し、謳い上げてきました。「愛」は私達の生きる大きな支え・目標・礎であったと思います。
しかし、自分がうつを経験したとき、そこには愛自体が存在しえませんでした。自分を救ったのは時間と薬でした。抜け出た時は身近な人に感謝しましたが、ど真ん中の時はたった一人でした。暢気で楽天家で愛が必ず世界を救うと確信していた頃に比べ、世の中の見方が180度変わり、寂寥感孤独感はありありと身体内に残っております。病気を体験して初めて観た世界でした・・。
映画で夫が海に行く前に、妻の体をそっとなでました。疲れて病んだ男の精一杯の愛情表現だったと思います。このシーンに「愛(=性欲なら)は人を救えない」ことをしみじみ感じ取りました。夫は事故死だったのかもしれませんが、いずれにしても妻は夫を救えなかったのだと思います(病気に気づかなかったことも含めて)
忽然と消えた夫のまぼろしを見せながらミステリアスに映画はゆっくりと進みます。うつ病の気配を濃厚に感じさせながらの進行はよかったですし、シャーロット・ランプリングも素晴らしかったですが、後半とラストにやや物足りなさを感じました。これは個人の趣味の問題です・・・
『男と女』では愛を失ったあとでも生きる勇気を与えてくれる映画でしたが、この映画はその対極・・・死に向かう映画だと思いました。
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