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[コメント] 28日後...(2002/オランダ=英=米)

After all..... 『ゾンビ』『死霊のえじき』ネタバレあり→2003年11月9日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「そして誰も居なくなった・・・生き残っていた男が居た。やりてぇ!」って事か?(絶対違)

冒頭の無人のロンドンの描写。圧巻、絶景、感動。『バニラ・スカイ』でも無人のタイムズ・スクウェアをしていたが、インパクトとしてはこちらの方が上だった。起きたら周りには誰も居ない、その恐怖はもの凄い物だと思う。まして、いつも人がごった返しているロンドンで。

その後、教会での気狂い(?)神父から始まるこの映画。「血を媒介として10〜20秒で感染してしまい、暴力的になる」というウィルスの設定はどこか陳腐で最初はバカにしていたが、実はこの「暴力的」と言う所こそ、本作のテーマだと思う。

確かに作品の根底に流れるのは生き残る事。生き残る事こそ、辛い事のはずなのに主人公達は生き残ろうと必死で走り回る。人が居ない、と言う絶望の中で「人が居る」希望を見つけるも、ウィルスの感染により、希望は一瞬にして絶望に変わる。

この映画は確かにゾンビ映画の様に見える。途中までは『DAWAN OF THE DEAD』(『ゾンビ』)で、軍人と出会ってからは『DAY OF THE DEAD』(『死霊のえじき』)である。スーパーマーケットの買い物はショッピングセンターでの買い物に相当し、無人の街は『死霊のえじき』の冒頭、ゾンビの飼育や、軍人の立て篭もり等々、共通する物は沢山ある。

しかし、これはゾンビ映画じゃないと思う。いや、まぁ「ゾンビ映画」って言葉そのもの自体多少曖昧な気もするのだが、とにかく何となく、良く分らないけどこの映画はゾンビ映画ではないと思う。やってる事はゾンビ映画なんだけど・・・何か違う気がする。

軍人が言った言葉。「このちっぽけな島国がどうなろうと構わないのだろう」だとか「今頃大西洋の裏側では女房と寝て・・・」の様な言葉がこの映画の本質じゃないかな、と思う。「生き残る」と言う執着心は別にして、人間の本質だとか、これだけのカオスの裏側では女を抱いて明日を生きている奴らが居る、これって今の地球そのものじゃないかと思う。

あの指揮官の台詞。「その前も殺し合い、そのまた前も殺し合い」みたいな事を言っていた。今までずっと殺しあってきたくせに、今更になって騒ぐなって事だ。これって平和ボケに対する言葉ではないだろうか?他人事としてみている事も、自分達の身に降りかかってしまえば大げさに思えるのだが、実はそれは昨日まで見て来た事と同じ、と言う事じゃないだろうか?

軍人たちのバカさだって、その裏に「生きたい」と言う感情があったと思う。けど、奴らのあのバリケードだって弾薬だっていつか底をつくはずだ。そんな事(考えてないように見えたけど)考えたら、自然と「明日をいきたく」なるんじゃないかな、と思う。だけど、結果として彼らの「生きたい」と言う感情も、暴力的に写る。また、その暴力に対抗する為に、主人公もまた暴力的に対抗する。

それが本質なのだと思う。

テンポも良く、音楽センスも良い。悲壮感溢れる終末な感じがたまらない。そしてそこに垣間見える「希望」。恐らく感染していないであろう馬の親子や、荒廃した都市部と対照的な郊外の芝生や木々。そして、「希望」と「絶望」、その間にある一本の線。暴力。

と、ここまでは良かったのだが、どうもラストシーンには納得行かない。宣伝には「衝撃的過ぎるため」とかほざいていたが、アナザーエンディングは『バイオハザード』と化している気がする(服装といい)。しかし、正規のエンディングにもどうも納得行かない。あの文字が「HELP」ではなく「HELLO」だったのは良いと思うのだが、どうもあっさりしすぎている気がする(つーかマンチェスター全焼してんだからどこの病院行ったんだよ。)。

個人的に、ラストは負傷して車の中で薄れ行く意識の中空を見上げると青空が光ってた、だとか、飛行機が飛んでいた、だとか、ラジオから希望的な放送が流れてきて主人公を見たらもう眠ってた。とか、そういう絶望の中に希望が溢れてるラストにして欲しかった。『ゾンビ』の希望の中に絶望が溢れてるラストの逆みたいな。いくらなんでも、あの2つのエンディングは好きになれない。特にアナザーは安っぽすぎる。

さて、果たして「絶望」の中で生きることは「希望」なのだろうか、「絶望」なのだろうか。この紙一重の両者の間に境界線なんて無い。気がつけば希望は絶望に変わり、気がつけば絶望の中で希望を見つけ出す。「生きている」って事は希望なのか絶望なのかわからないけど、「わずかな未来」があるから、あると信じているから人は生きてるんだね。

絶望しながら、心の奥底で信じてるから。

余談・・・正規のエンディング。主人公が目覚めた時、「まさかこの映画は夢オチだったのか!?」と一人で苦笑(テロップの「28日後」と言うのに変な風に騙された)。

余談2・・・英国軍の銃はブルパップ式なのでインドアではさぞかし取り回しがよく使いやすかったであろう。にも関わらず飼い慣らしていた”狂暴性”に全滅に追い込まれるとは皮肉なり(『死霊のえじき』のパロディか?)。

(評価:★4)

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