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[コメント] 絞死刑(1968/日)

私の立場は変らなかった。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 メッセージ性の高い映画で、死刑制度を廃止しようと主張している。また人の感情に訴えるのではなく、懸命に理性へ訴えようとする姿勢が感じられる。その分、言葉が多すぎてバランスの悪い作品になってしまったが、死刑の残酷さをグロテスクな映像にて執拗に描く手法もあり得ることを考えれば、大島のこの姿勢は誠実さの表れである、と評価することができる。私は、この誠実さは嫌いじゃない。

 だが、最後になって唐突に、内心に国家を持たない者の罪は問えないが、持つ者は国家の与える罰に甘んじて服すべきだ、てな論点を持ち出してくることからもわかるとおり、死刑制度廃止の正しさを論理的に導き出したとは言い難い。というよりこの作品を見てあらためて確信するのは、死刑制度の存置/廃止の別は、基本的に倫理の問題であって、論理的に正邪を決められる問題ではない、ということだ。

 論理的でない主張を論理を装って展開するので、観念的な用語を多用したり、小難しい言い回しを駆使したり、民族的・歴史的罪悪感みたいな無関係な論旨を混用したりすることになる。率直に言って、駄弁の披瀝を作り手側が楽しんでいて、それに溺れているようなところがあり、それは見る側には苦痛でしかない。だがこれは、大島の不誠実さなのではなく、誠実さの限界なのだと解釈してあげたい。

 したがって批難されるべきは、こうした駄弁を弄すスタイルが、この映画を一般の観客から遠ざけてしまっている点だと思う(実際には同時代がこの作品をどう評価したのか知らずに言っている)。黙っていても大島作品を見にくる固定ファンではなく、一般の映画ファンに訴えて初めて意味のある主張だと思うので。

 個人的には、論理を装いすぎたがために、大島が死刑を忌避するその感情的・体験的根拠の伝わってこないことが不満である。

65/100(09/09/12見)

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)太陽と戦慄[*] sawa:38[*]

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