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[コメント] イゴールの約束(1996/仏=ベルギー=ルクセンブルク=チュニジア)

これは、「契約」の物語である。
ちわわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品で、注目しなければならないのは、ひととひとのあいだの契約を意味する さまざまな事物である。たとえば、イゴールと父親のあいだの契約を意味する 入れ墨、指輪。 入れ墨は、もともと大地との契約を示していた。

黒人労働者の妻が、手元に置いている像。(そしてそれをみる イゴールのまなざし)。この黒人労働者のまわりには、さまざまな契約をあらわすものがみられる。たとえば、鳥の巣、ニワトリ、羊(これは食用だといっていたが)。

これは、イゴールと彼をめぐる「契約」の物語である。 ひとりの命をおとした黒人労働者をめぐって、 イゴールが直面するのは契約のダブル・バインド的な状況である。 黒人労働者の最後の言葉は、父親に反逆しなければならないことを 意味していたのだ。

もちろん契約とは、無意識的なるものだ。わたしたちも既に意識せずにさまざまな契約を結んでしまっている。わたしたちはそれを意識せずにいられる限り、われわれは安住していられる。いや安住をもとめて、われわれは契約するのである。 だが今やイゴールはそれを意識してしまったのである。だから黒人女性のさまざまな契約がすべて「見えてしまう」のだ。したがって、彼に残されたのは「真実」を 語ることでしかなかった。父親にとって、けっして明かされてはならない。おそらく黒人女性にとっても明かされて欲しくない真実。暴力のごとき 真実を。

そして、すべてが明かされたあと、街の雑踏がながく聞こえ続ける。この雑踏は 存在のざわめき(レヴィナス)のようなものかもしれない。 それは、わたしたち自身の根源のざわめきでもあるのだ。

追記 la promesse は約束、契約の意味。音は、つぎの  『ロゼッタ』でさらに追究されているようにおもわれる。

(評価:★5)

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