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[コメント] ウンタマギルー(1989/日)

サトウキビ絞り機ぐるぐる、永劫回帰。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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沖縄を舞台にしたフィルムを撮り続ける高嶺剛監督の初の35ミリ作品。沖縄伝来の英雄神話「運玉義留と油喰坊主」を、沖縄の本土復帰に揺れ動く時代(60年安保)を舞台に表象=上演=再現前化したこの作品は、政治的激動期の現代の現実性と神話の虚構性との交錯のなかで、本土復帰によって平板化され失われつつある沖縄の伝統文化への惜しみない郷愁を、変にシニカルな悲観を持ち込むことなくフィルムに収めることに成功している。ブタの化身である美女の乳房を弄ぶ妄想に取り憑かれた主人公(小林薫)の滑稽なエロティシズムや、占いごとにうつつを抜かして高級娼婦の仕事をほったらかしにしている主人公の妹(戸川純)の奇妙にジェンダーを逸脱したひょうひょうとしたエキセントリシズムなどを淡々と写した描写がそれに一役買っている。現実と虚構の境界を越えて回り続けるサトウキビ絞り機のゆっくりとした旋回(永劫回帰?)を写しとった田村正毅の手によるショットが、作品全体の説話行為の反復性ともリンクしていて印象的。89年という、本土復帰の時代とはまた異なる世界史的な激動期に制作されたというコンテクスチュアルな側面にも目を向ければ、この作品が日本における沖縄映画史の一つのメルクマールを形成していることは疑いえないだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)寒山拾得[*] は津美[*]

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