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[コメント] アバウト・ア・ボーイ(2002/英=米=仏)

流れとかみ合わない饒舌なモノローグ×2。同じニック・ホーンビー原作の『ハイ・フィデリティ』にはあって、この映画には欠けていたもの、それは饒舌を映画的時間に同調させるためのリズム感。
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親の遺産でのほほんと暮らし孤独を愛する女たらしの不良中年ウィル(ヒュー・グラント)と、家庭環境のせいで妙に大人びてはいるが自分の居場所を見つけられない少年マーカス(ニコラス・ホールト)、普通に生活していたらほとんど接点のない人間どうしが、ひょんなことから出会い、そして友情が芽生えてゆく。出会いのシチュエーションもユニークだし、こういう日常のちょっとした偶然の積み重ねから起こる「ありえそうでなかなかありえない」お話は大好きだ。

その過程の描写も良い。マーカスがやって来てウィルがドアを開けるショットや一緒にソファーに座ってクイズ番組を見ているショット、一緒にスニーカーを買いに行くシークエンス、プレゼント交換をするパーティーのシーンなど。さりげない描写の積み重ねで二人の関係や心境の変化を表現する。巧い。巧いと思ったのだが、でもどこかに違和感がある。

違和感のポイントは2つあった。まず、やたらと挿入される、心情を吐露する二人のモノローグ。これが全体のテンポを悪くしてしまっている。この饒舌なモノローグ(×2)が、軽快なテンポで進むお話のリズムとうまくかみ合っておらず、なんとなく流れから浮いてしまっているため、どこか説明調な感じがして、映像による描写だけで表現しきれない部分を補足するための白々しい手段に見えてしまうのだ。

それから、主題の分散。主軸にあるのはこの男二人の友情話にあるはずなのに、うまくポイントを絞りきれておらず、いろんなエピソードを曖昧に挿入してしまっているため、全体のまとまりがひどく散漫な印象を受ける。主題はウィルとマーカスの友情話なのか、マーカスと母親の愛情話なのか、ウィルとマーカスそれぞれの恋愛話なのか、どこに力点を置いているのかがうまく見えてこないのだ。まず軸となる主題を中心にしっかり据えてこそ、周りのエピソード群も活きてくるのではないか。

ニック・ホーンビーの小説はいたって饒舌だ。いや実は読んだことないんだけど、この映画と『ハイ・フィデリティ』を見る限りきっとそうなんだと思う。だからそれを映画化するにあたっては、その饒舌ぶりをいかにうまく映画的に処理するかが、けっこう勝負どころになるんじゃあないか。『ハイ・フィデリティ』の場合、まず「失恋の理由を探るため過去の恋愛遍歴をさかのぼって回想する」という物語の主軸があって、その恋愛遍歴をベスト5形式で観客に向かって語りかけるラジオDJに擬したスタイルが、映画の雰囲気と絶妙にマッチしていたため説明的な印象を与えることもなく、過去と現在を行き交う物語にリズムと確かな説得力を与えていた。一本芯の通った主題、モノローグと物語の絶妙の連動。『アバウト・ア・ボーイ』にはなかったものがこちらの映画にはあったと思う。そういう語り口の工夫が、もっと欲しかったように感じた。

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[021002] 池袋シネマサンシャイン

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)くたー ピロちゃんきゅ〜[*]

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