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[コメント] 綴方教室(1938/日)

そうか、そうか。こうしてでこちゃんは文筆家としての第一歩を踏みだしたわけね。と、あまりに自然で達者な演技ゆえ混乱しそうにさえなりました。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あんなこんなで喜んだり悲しんだりするマー坊を見るたびに、こちらまでが嬉しくなったり泣きたくなったりしてくる。

ワンピースの裾のゆらぎや単調でものがなしい雨の音が、なにげにまきつけられた腕の弱々しさや白々と風を送る扇風機の細かな動きが、ぬかるんだ土や破れた障子や蝉の抜け殻や床を転がるかじりかけの胡瓜が、さりげなくも実に素晴らしい。日常のささやかな悲喜こもごもが、それらの背景や状況や感情の糸口となるものが、これらの細やかな描写によって、より印象深く、けれど決して押しつけがましくなく伝わってくる。

舞台が戦前の四つ木という、個人的になじみ深い場であることにもドキドキする。たまに映る朝鮮の人々の姿にも、荒川の土手に咲く鳳仙花を思ってはドキドキする。

でもいちばんドキドキするのは、マー坊が「書く喜び」に魅入られているということだ。その喜びを知った後の彼女は、たとえ人に見せる予定などなくとも、それでも「綴り方」を日々書き続けてゆく。先生に言われたように、<見たり聞いたり感じたりしたことを、正直に、かつ第三者にもわかるように> 綿々と書き綴ってゆく。

彼女にとって「書く」という行為は、日常をたくましく生き抜いてゆくための、日常を少しでも豊かに受けとめてゆくための、とても大切な心の支えであったのだろう。

私はそれに胸をつかれた。

この喜びをまったく知らない人は、きっとこのサイトに登録することもないだろう。ふと、そんなことを思ったりもした。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] 寒山拾得

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