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[コメント] MW -ムウ-(2009/日)

原作の面白さを知ってる者が観ると設定や解釈の違いに呆然とするであろう。けれど原作を知らずして観ても、それなりに観られる気もする。しかし、本作の、はしょった後半の急展開は、やはり原作を読んでいないと解らないであろう。玉木宏は健闘しており、尻込みした製作陣をよそに、これなら原作通りでも演じ切れた様な勢いを感じた。
TOBBY

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







幼少期より手塚治虫リスペクトである。なので原作の面白さは超えられないのを承知で観に行った。が、設定や解釈だけにとどまらず、適当な演出やTVっぽい映像に憤慨する場面も多々あり。

やはり原作の最大の面白さは結城が変装の名人で、男にも女にもなりすまし(原作では歌舞伎役者の血を引く)次々と周囲を手玉に取って非情かつ残虐な場面の連続なのである。青年誌に連載の作品とはいえ、いつものギャグやヒョウタンツギなどのボケもなく読むのも疲れるぐらい濃縮のスリリングでサスペンスフルな漫画なのである。

映画だとやはり描写に問題があったのか原作ではオマケに近い冒頭の誘拐事件をメインにしてしまい、原作で最もボルテージの上がる政略結婚した政治家の娘や、勤務先の銀行員の娘たちの残虐な殺害や、結城にレイプされ虜になり、いいように使われる賀来の恋した女や、結城と関係すらある犬の存在等を丸ごとカットが悔やまれる。そのくせ意味不明な教会に住む少女(山下)や、新聞記者の若手(山本)など、必要性の無い人物を無理矢理作って出す政治力に屈した製作陣に腹が立つ。

また設定変更で、玉木宏演じる結城と山田孝之演じる賀来は同性愛的な結びつきがあり、それが双方に誰にも理解出来ない絆を造り上げているのだが、まぁそれをハリウッドとかならともかく、日本の映画会社が設定を伏せたのは解らなくも無いが、おかげで原作を知らないと、なんで賀来が非情な結城をフォローするのかが解らない状態に。原作を読まなかった山田自身が、この神父の心情やキャラクターが、さっぱり理解出来ず非常に演じ辛かったと言っているので身もふたもない。結局、監督は山田には、賀来と結城は画面には出なくとも同性愛的に惹かれ合ってると言う事を教えたと語っているが、それ…少しでも画面で臭わさないと、原作知らない観客は余計に混乱するだろうと…。それなら潔く友情と誠実さで結城を見守る設定にしろよと。

玉木が演じた結城に関しては変装シーンは皆無に等しいが、基本キャラクターと言うより見た目が原作そっくり。痩せ過ぎてアップだと顔の皺が怖いが、なかなか健闘はしている。ただ原作だと賀来の事が好きで、どこかで彼への信頼がある。ゆえにラストの賀来の行動に悲しみショックを受けるのに、映画の結城は賀来に平気で暴力を振るう演出があまりにも適当。監督自身、設定を変え過ぎて、結城と賀来の心情や関係に混乱を来したのでは無いか?。

冒頭で走りまくる、でっぷり太った石橋もクールな原作の刑事とは大違い。正直、高橋克典あたりで結城や賀来を追いつめる程に肉薄する刑事にして欲しかった。

では?しょーもない事だらけだったのか?というと映画オリジナルでは新聞記者を演じた石田ゆり子が大健闘。年齢を重ね、地味な美人から、説得力のある知的な美人になった彼女は勇敢で探究心のあるジャーナリストをリアルに演じており、松嶋菜々子あたりだと女臭くなりそうなところを真摯に演じている。彼女が取材中にどんどん事件の核心に近づく部分は緊迫感がマックスになるし、教会で、結城と賀来に詰め寄るシーンは存在感を発揮。本作は彼女のベストワークかもしれない。惜しむらくは銃弾に鬱たれる時は背中から血しぶきを上げて欲しかった。

また、とにかく設定変更を余儀なくされて、おこちゃまになった賀来の原作にある闊達さや正義感、決断力が一切消えた優柔不断の山田の演技に苛々するも、脇役に強力なサポート陣が。品川鶴見も及第点ながら、助演男優賞は結城の上司を演じた半海に尽きる。気が弱く適当で、いい加減だけど調子が良いと言うしょーもない役柄をリアルに演じている。

ちなみに観ていて銃撃戦のシーンで逃げまどう石田を放置し、自分だけ逃げる山田のシーンが神父と言う職業を形だけのものにしてしまっており違和感が生じたのだが、後で実は監督は、石田を庇う様に演出していたのだが山田が「僕だったら愛する人(結城)の存在を脅かす石田は、置いて、急いで結城のもとに走ります」と忠告して演出変更になったとか…。なんという薄い発想。それを呑んでしまう監督も…。 オードリー・ヘップバーンが「ティファニーで朝食を」で監督とジョージ・ペパードが演出で揉めて、結局ペパードが意見をごり押ししたが、結果は惨憺たる出来栄えで、監督とは役者の意見に耳を傾けて容易に演出を翻しては、いかんざき!と、語っていたのを思い出した。

で、なんだかんだで、普通の邦画よりは楽しめたので総合評価は「どろろ」と同じ平均点の評価です。 ジュード・ロウ(結城)とベン・アフレック(賀来)辺りでリメイク出来そう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ダリア[*] 死ぬまでシネマ[*] 水那岐[*]

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