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[コメント] サイン(2002/米)

楽しんでやってくれてるうちは、続けてほしいな、シャマラン君。映画のできは問わないから。でも、もしかしたらこの人とんでもない人なのかも
mfjt

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シャマランの意図は明白だ。60年代以前の手法で、どれだけ大風呂敷を広げられるのか。

人類滅亡の危機を描いていながら、舞台で演ずることすらできる脚本。舞台脚本が名画を生んでいた、50年代の映画作り。

そして徹底的に演出にこだわっている。子役の使い方、はらはら感の盛り上げ方、ショックの与え方、俳優の気の入れさせ方、どれをとってもうまいなーと思わせる。古典的演出技法の発露だ。ヒッチコックに代表される、名監督と呼ばれた人たちが残したもの。彼が目指すのは、テクノロジーが映画制作を容易化する前の、職人の技だ。

そして、ITなどの周辺分野が吸収していた映画制作コストを自分自身に取り戻し、きっちりと仕事を仕上げようと言うわけだ。

はっきり言って、その試みは破綻しているように見える。職人の技は十全に発揮されているものの、その完成度は歴史的名画たちにははるかに及ばない。プロットのご都合主義がどうしても鼻に付いてしまうのだ。だからこそ、評論家は彼のテクニックを認めつつ、映画そのもののできについて歯切れが悪くなってしまうのだろう。

しかし、劇中の彼のとぼけた顔を見ていると、それでいいような気がしてくる。あれほどシリアスな役でありながら、なぜか憎めない。これは、監督としての彼自身にも当てはまる。楽しんでるね、こちらも1時間と30分は楽しませてもらったよ。これ以上は望むべくも無いし、望んではいけないことなのだろう。これは、日本の芸能と同じ。演者の技を見るものであって、内容をまじめに考えるものではないのだ。

少なくとも、他のハリウッド監督ができないことをハリウッドで達成し、聴衆に期待をもたせてくれる。それだけでも価値のあること。それはつまり、ひとつの革新的ビジネスモデルでもあるのだ。それは十分に☆4に相当する。

彼には好きなようにやらせてあげたい。楽しんでやってくれているうちは期待が持てると思う。期待を裏切られるのを楽しむのもまた一興。

最後の結末は多くの日本人にとって何の意味もなかった。それは今回、彼が背負った大きなハンディだ。西洋人たちにとっては衝撃の結末と言うことになるのだろうか。

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追記

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と、ここまで書いてきて、あることに気が付いてしまった。

もしこれが、神の業だとしたら、そしてその目的が主人公に信仰を取り戻すことだとしたら、しかしそのために、宇宙人まで持ち出すのか。多くの人々を恐怖に陥れ、その命を奪うのか。これはまさに中世終末思想そのものではないか。こちらのほうがよほどコワイ話だ。

しかしこういう反論もあるだろう。神は少年の命を救うのがせいぜいなのだ。宇宙人は彼の守備範囲外なのだと。これもまた、ほほえましい結論だが、ごく一部の人には衝撃的なことだろう。つまり神は全能でもなんでもない。あなたの神ってその程度?ってなものだ。(明らかに現代医学のほうが人命に貢献するぞ。)

などと深読みをしていけば、この脚本が高かった理由もなんとなくわかる。多分、キリスト文化の人にはこの手の議論はもっと身近なのかもしれない。だから、最後はやはり衝撃の結末だったのかも。

しかし、シャマランはもっとシニカルだ。そういえば、彼が演じたのは「神」の役だったといえなくもない。(あの浮いた演技がなによりの証拠だ?)

ヒッチコックを演じ、神を演ずる。本気なのかなんなのか良くわからないが、まあ、それくらいこの人は、深読みまでも楽しませてくれると言うことですな。

(評価:★4)

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