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[コメント] ドラゴン怒りの鉄拳(1972/香港)

人界の龍。俺が求めるヒーローはここにいる。
町田

なんとも典型的なプログラム・ピクチュアである。如何わしさ満天のタイトルバックに、大袈裟極まる扇情音楽、粗雑なセット&ライティング。こういう環境でも、巧い監督さんだったらそれなりの作品を作るんだが、俳優出身(本作にも警察署長役で出演)というロー・ウェイは、残念ながらそんな気の効いた演出家ではない。この映画が作られた少し前、我が国で流行していた仁侠映画を手掛けた老若数多の監督の中にも、ロー・ウェイ程のヘタクソはいない。

しかし、それでも俺はこの映画をとても好きになってしまった。それはブルース・リーを尊敬しているから彼の仕事は全て最高だ、というのとはまた少し違う。

音楽が止む。劇場の灯が落ちる。痛んだフィルムがスクリーンに投影される。パっと映し出される青空にいきなり暑苦しいナレーション。『日本侠客伝』の健さん宜しくリーが師匠の葬式に遅刻して登場、既にハイテンションで飛ばしまくりで、興奮の余り墓掘り返して、兄弟子に後頭部はたかれ気絶なんて、それだけでも相当に愛しい。そこへ前述の如何わし過ぎるタイトルバックだもの。音楽は煩いし、なんか燃えてるし、映画を観てて、そのタイトルバックから、こんな得体の知れない昂奮を味わったのは本当に久しぶりだ。初めて東映仁侠映画を場末の名画座で見たときと同じ、これが黄金時代の香港映画なんだ、未知の世界に一歩踏み込んだんだ、というウブな感動。俺はまた映画に泣かされてしまっていた。

それにしても中国人が本当に怒っているんだ、というのは下手な戦争映画やドキュメンタリを見せられるより、こういう娯楽映画の中で見せられる方が格段に判りやすいね。でもこういう風にも取れる。日本人は確かに醜く描かれているけれど、それなら同じ中国人の裏切り者に対する描き方のほうが辛辣だし、ロシア人なんて気の毒なことだが熊としてしか描かれていない。この映画が憎んでいるのは全ての悪人共だ。この映画が守ろうとしているのは不当な扱いを受けているごく一般的な人々だ。そしてヒーローがいる。その心は揺れる。

俺はヒーローの勝利に酔いしれたいのではない、ヒーローの意志と行動の強さ・美しさに撃ち抜かれたいのだ。

俺は俺が求めるヒーローに、久しぶりに出遭うことが出来て嬉しい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ペンクロフ[*]

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