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[コメント] 亀も空を飛ぶ(2004/イラク=イラン)

何よりも驚愕するのは05年という同時代に、こんな切実な映画を撮らなければならない弱冠38歳の映画作家が、この私が暮らす社会と地続きの世に存在しているということだ。描かれているのはイラクに暮らす子供などではなく、イラクそのものの縮図なのだ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







サダムの兵士の子を産み落とし途方に暮れる少女(アヴァズ・ラティフ)は侵された土地そのものの象徴であり、その輪姦を目の当たりにしながら何もできない予知能を持つ両手のない兄(ヒラシュ・ファシリ・ラマン)は侵された土地に暮らすことを強いられつつ、己の行く末を悲しみに溢れた瞳で見透かす諦観の民そのものだ。

アメリカに心酔し、仲間たちのアメリカたらんと行動する少年サテライト(ソラン・エブラヒム)は、そのアメリカ製の地雷で傷つき進駐した憧れのアメリカ軍を見ることもかなわず、見る見る化けの皮が剥がれる「赤い金魚」を目の当たりにする。

未来の象徴であるべきはずの子供たちに未来は見えず、彼らの周りに存在するのは過去からの負の遺産の線上に存在する「今」という現実だけだ。

私は、ここに描かれた子供たちの悲惨さにショックを受けたのではない。「子供」という無垢な素材を、ここまで汚してでも伝えなければならない状況に直面しているバフマン・ゴバディという監督が「今」この世界に存在しているということ、そしてその思いの身を切るような切実さに驚嘆し感動したのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)KEI[*] 林田乃丞[*] uko243

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