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[コメント] 草の響き(2021/日)

狂ったように走るのは狂わないようにするため。自嘲的に吐き捨てる男(東出昌大)は周りの世界とかかわるすべを見失っており、自分のことしか見えていないようで実は自分のことすら見えなくなっている。進むことが逃げるこになった男のゴールを思うと胸が痛む。
ぽんしゅう

スケートボードに興じることで享楽的に見えながら、実は世界の圧や周囲との摩擦から身をかわし、広場に閉じこもる若者(Kaya/林裕太/三根有葵)たちの幼くも痛々し葛藤に遭遇してもなお、男(東出昌大)は「人のことは分からない」とつぶやくだけだ。そんな男の「病」を理解しつつも「人」として理解しきれなくなりつつある妻(奈緒)の不安にもまた、胸が痛む。

主観を語らず(語らせず)客観描写に徹して、世界との関係に齟齬が生じてしまった者の「不安」を、物語のない物語として浮かび上がらせる斎藤久志監督の沈着冷静な語り口が、原作者佐藤泰志の苦悩を映像化して痛々しい。

シーンごとに変る奈緒さんの衣装が、どれもセンスが良くとても可愛らしい。本作の主題と相容れないほど際立っていて初めは少し違和感があった。しかし、東京で生まれ育った妻純子が、函館という異郷で抱く心細さを象徴する逆アイテムとして機能していることに気づく。衣装担当は小里幸子白石妙子がクレジットされている。調べてみると白石は、とても先鋭的なスタイリストだった。彼女の仕事だろうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] ゑぎ[*]

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