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[コメント] 裏窓(1954/米)

映画が娯楽であった幸せな時代の佳作。
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画が見せてくれるものには二つある。現実確認と願望充足。でこの映画は願望充足。ともかくしゃれている。これはまあ、夢の世界ですよ、現実の日常生活をうまくきりとったように見せる映画ですよ、という約束事の世界でハラハラドキドキしよう、というわけだ。オーヘンリーとかサリンジャーとかなんだかそんなアメリカ小説の匂いがする。

日本でも昔の夏の長屋は窓を開け放って、そこら中のTVの音や喧嘩の声やまーいろいろ他人の生活、息遣いが流れ込んでくる環境はあった。しかしこの箱庭セットはあまりにあけすけすぎる。そしてこれを覗き見しているジェームスに背徳感がほとんど見当たらない。これは覗き見だから悪いことをしていることにしておこうね、という観客との約束事の上に成り立っている。画面に写る場面の生活音だけががしっかり聞こえるとうに作られている。見えるところだけでなくその音もはっきり選択的に聞こえるようにしている。人の生活を裏窓から覗き見すれば人間いろいろあるよ、という世帯風俗の描写になっている。そういうのを見ている気分にさせてくれる映画。

美男・美女が主人公で人生の様々な局面を見せてくれる教育的な存在、そういうものも映画が担っていた時代の作品。向かいの部屋で殺人事件が起きている(ということにしておこう)という括弧の見方に慣れているこちらとしては、ジェームズに感情移入できない。ましてやあんな美人がもう今日はここにお泊まりする、とかいってくる訳だ。ありえない。でもまあ、こういう世界もあるからつきあってね、という前提を飲み込んで仕舞えば、それなりにはらはらドキドキする。ずっと見るだけのはずだった世界に自分の分身が入っていき、さらに向こうの世界から刺客が迫ってくる、というのはうまい仕掛けだと思う。

最後の20分ばかりが本作品の真骨頂でそれまではこの映画世界の設定に馴染むための時間だったと思った。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ナム太郎 緑雨[*]

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