汚泥のシャワーとか芋虫つぶしの歯磨きとか、けっこう気持ち悪い、きたない描写がよくできている。こんなヤツが主人公なのか。そうは思うがオーガ（怪物）の造形としては妥当。自分は醜いので人に嫌われる。だから人を避けて暮らしている。ここが昨今のストーカーとひと味違うところだ。相手が嫌がるから自分から身を引くんだ。自分を避けないドンキーを好ましく思うが、いやいやむなしい願いを持つのはよそう。どうせ忌み嫌われるに決まっている。はじめから遠ざけて置いた方が気が楽だ。これ以上傷つくことはない。つまりはシュレックは外見と異なり、繊細な感じやすい魂を持っているのだ。これはおとぎ話の野獣の定番である。

定番でないのは姫の方である。野獣から姫を救おうとするロビンフッド一味をあさっり退治。ここまではありがちだ。チャーリースエンジェルなんだから。それだけじゃ終わらない。シュレックに付き合ってゲップまでする。イメージが違う、と驚くシュレック。私はこの後の小突き合いながら遠ざかっていく二人のシーンが好きだ。シュレックが恋心を抱くのも無理はない。その恋心が打ち砕かれるのは、姫の告白を盗み聞いてしまったからだ。醜いものと美しいものはうまくいくことはない。と姫はいう。やはりこの姫もそうなのだ。当然だよな、うまくいくはずがないよな。フーテンの寅のような展開である。この姫は浅丘ルリ子演じるリリィだ。美人に生まれるつくのも大変らしい。自分の身に憶えのない感情をいつも向けられる。男どもはいざとなると遠ざかってしまう。近づいてくるのはとんでもない勘違い野郎ばかりだ。美女もまた孤独である。やんごとなき方々を見よ。

ラストのハッピーエンドは私なりに納得した。いいじゃないか、本来の自分になんかならなくたって。今の自分を認めて暮らしていこう。もうひとりぼっちじゃないんだ。そういう結末である。このよくできた３Dアニメが子供向きかどうか、問題のあるところだが、この作品で勇気づけられる（ひねくれた）子どもは必ずいると思う。そういう子にこそ必要なメッセージがこめられていると思った。蛇足ながらサイマフ氏もご指摘のように、シュレックにはどこかアメリカを重ねて見たくなる。善意で行動しているつもりなんだが疎まれ嫌われている強大な怪物。姫は英国であろうか。日本にはドンキーばりの明るさと行動力が欲しいところだ。