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[コメント] 昼下りの情事(1957/米)

私に全く合わない物語で、ここまで評価させてしまったワイルダーは、やっぱり、偉大だ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 最初に言っておくが、私はメロドラマは嫌いだ。観てるこっちが恥ずかしくなるし、特に定番の、何かを隠していながら表面上装ってつきあっていると言うのはどうもいたたまれなくなる。これがテレビだったら画面を消してしまいたくなる。これは純粋に好みの問題で、私にはこう言うのが本当に合わない。

 そう言うものを全て吹っ飛ばし、画面に目を釘付けにしてくれる作品も確かにいくつかは存在する。私にとっては本当に最高!と呼べるものとして『ローマの休日』があり、『お熱いのが好き』、『あなただけ今晩は』がある…妙にビリー=ワイルダー作品が多いな(笑)。

 これも確かにワイルダー作品なのだが…残念なことにそれほどはまることが出来なかった。あまりにも見え透いた嘘で固め、伸ばせるだけ背伸びをしたオードリー=ヘップバーンの役も痛々しいとしか感じなかった。更にそんな小娘に振り回されるゲイリー=クーパーも失笑もので、全く私の心を打たない。観ていて本当に痛ましく思えてしまった。ヘップバーンの髪型も変だったし(関係ない?)。ストーリー自体はどう見積もっても平均点程度が関の山。

 ただ、この作品、それはもう、とんでもなく小技が上手い!画面上に登場する全ての人物に無駄が無く、きっちりと演技しているし、実に見事に画面にはまっている。何より探偵の父親役、シュバリエが実に渋みの利いた演技をしてくれた。

 冒頭部、浮気調査の依頼主と父親が話している所を盗み聞きするシーン。あそこで画面上部に顔だけ出しているヘップバーンが瞬きした瞬間、見事に計算された絶妙の間を感じたし、ヘップバーンとクーパーがキスした後、画面が暗転し、次の画面ではヘップバーンが鏡に向かって髪を直している。これだけで、間に何があったか、見事に表現されているのが分かる。全くそのシーンを見せずに“情事”を演出してしまったし、オードリー演じるアリアンヌがどれほどの覚悟でここに来たか、そしてそのことを全く後悔していないと言う事実を、鏡に映る笑顔で見せてくれた。

 好青年ミシェルも、顔が良い割りに、ほんの小さな仕草でドジぶりを演出しているし、どこにでも出没する4人の楽団も、中盤辺りから見事に個性を発揮している(声を全く出さずにあれだけの演技をさせる事が出来るなんて…)。一体彼ら、普段どんな生活をしてるんだろうか?と言うのは余計なお世話か(笑)

 そしてラストシーン。中途半端な心のまま分かれようとするクーパーに対し、ヘップバーンがで、「私は泣かない」と宣言しつつも、内からわき上がる感情の波を覚られぬよう、振り返った瞬間、そこには別れを惜しんでキスするカップルの姿が…その瞬間こらえきれずに見せる涙。いやはや上手い上手い。

 それに何より、モーリス=シュバリエ。オープニングとラストで状況を語る際、現す姿が又良いんだよね。最後、片手に娘のチェロを持ち、行ってしまった娘を呆然と見遣りつつ、奇妙に楽しそうな表情になってきびすを返す。見事なカメラは一だった。とにかくそう言う小技が一つ一つ、ぴっちりとはまっていて、それを見るだけで充分って気になってしまった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] Stay-Gold ina[*]

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