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[コメント] パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト(2006/米)

良くも悪くもブラッカイマー印というものの典型が現れた作品ですな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は最初から三作目が作られることが前提であり、見事に「続く」になっているのが特徴。だから、本作単体ではストーリー部分をどうこう言える立場にはないが、これだけは言っておこう。

 本作はブラッカイマー印の良いところも悪いところも全部受け継いだ作品だと言うこと。

 ジェリー=ブラッカイマーは製作者としては敏腕で、彼の手がけた作品は、映画、TVシリーズ(CSIとか)共に高視聴率を稼ぎ出すことが出来る。これは彼の経営手腕もあるが、変な思想を取り入れず、「売れるものを目指そう」という割り切った映画製作の姿勢にもあると思われる。

 では売れるものとは何か?と言えば、勿論それは演出である。視聴者にのめり込ませ、徹底的に楽しませようと言う思想がそこにはある。観客に楽しんでもらって、金も儲かるという、ある意味最も経済的に正しい方法なのだが、この問題点は、時として演出だけは良いけど、中身がスカスカのものが出来てしまう可能性があると言うこと。

 前作『呪われた海賊たち』はそれでも際だった演出とキャラの良さによってその辺あんまり感じさせなかった作品だった。要するに物語の単純さと設定の悪さを他で補うことに成功した作品だったのだが、流石に続編になると、その悪い部分が目立ってしまった。

 確かに本作もふんだんに金かけられているのみならず、ふんだんに笑いを用いた演出は際だったものがある。原住民に追われるシーンや、水車の上で剣戟が行われるシーンなど、息をのむ派手な戦いのシーンでこれだけ笑いが起こったのは、他にはあり得ない。よくぞここまで色々アイディアが出てくるもんだと感心させられる。

 キャラも相変わらず良し。ジャックになりきったデップはその行動一つ一つが笑いを誘うように出来ているし(立ち居振る舞いそのものが笑わせてくれるが、どんなに危険に陥っても、踊るような走り方するのが面白い)、その個性はよく出ているが、本作ではデップよりもブルームの方に個性が際だっているのも面白い所。前作では単に恋する若者だったウィルが様々な試練を通して徐々に複雑なキャラになっていく過程がよく出ている。ますます良い役者になってきたね。

 と、褒めるべき部分は多数あるし、2時間半近い長丁場を飽きさせないストーリー運びも上手いと思う。

 ただ根本的に悪い所が本作にはある。これはもう、設定の無茶苦茶さに他ならず。これに尽きる。天文学的な確率の低さをものともせず、どんな行動を取っていても巡り会う三人には、ご都合主義の固まり。運命と片づけるには、あまりにもいい加減。これが例えばスター・ウォーズだったら“フォース”という良い言葉があるけど、冷静に考えると流石に引くぞ。ウィルの父親や女呪術師の存在も意味があるようで全然なかったりする。それに風呂敷を広げるだけ広げて全く閉じようとしないストーリー運びにも疑問点だらけ(この辺は3作目を待つしかないのだが)。まさかあそこで終わらせるとは思ってもみなかったよ。

 言ってしまえば、本作は映画の体裁を取ってない。むしろテレビシリーズそのものの作りになってしまってる。これだったら、何も前後編にするのではなく、いっそ3〜4話まで続きにして1時間半にまとめ、更に公開のスパンを早めた方が良かったんじゃないかね?(その方が儲かるし)

 それにデップ、ブルーム共にキャラは良いんだけど、今回に関してはナイトレイがどうにも浮きっぱなしって感じもした。前作は可憐さの中に心の強さを秘めたという役だったのだが、今回は最初から最後まで戦士って感じだから。勇猛なのは良いけど、メリハリがないんだよな。

 後、これを観ていて思ったのは、これって本当に『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980)なんじゃないかってこと。ミニストーリーの連続で飽きさせないように物語が構成されていることと言い、運命によって結び付けられるキャラと言い、最後に悲劇が待っていて「次に続く」で終わることと言い、キャラの扱いがウィル=ルーク、ジャック=ハン・ソロ、エリザベス=レーアだったり…見事なくらいに適応してる気がするんだけど。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)りかちゅ[*] Walden Keita[*]

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