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[コメント] 放浪記(1962/日)

成瀬監督の本領発揮。情け容赦ない描写が特に映えた一本で素直に脱帽です。凄い障害です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 林芙美子の同名の自伝の映画化作品。大正から昭和初期にかけ日本で盛んになった文芸同人の世界を、そのままリアリティ溢れる設定のまま描いている。

 ここでの生活のリアリティは凄く、一見華やかな文壇も、一皮めくってみれば極貧と、ドロドロした愛憎の固まりであり、むしろそれを肥やしにして数々の作品は出来上がっていったことが分かる。特に林芙美子の場合それが顕著で、そのまんまの生活を吐き出すかのような文体は、彼女に関係した人間にとっては恐怖の対象だっただろう。こう言うのを書かせたら、男じゃやっぱり駄目。女性だからこそ情け容赦ない現実が描けたんだろう。はっきり言ってしまうと、観てるのが辛くなるレベルで、私が最も苦手とする作品だ。

 だけど、ここでの高峰秀子の演技は特筆すべきレベル。観てるだけで辛くなるのに、彼女の姿から目を離すことが出来ない。ここでの高峰の造形はわざと不細工に作られているんだが、それを逆手に取っての生活に疲れ切ったと言った風情で、しかも目だけはギラギラとしてる。よくぞここまで演じられたものだ。

 一方の男性陣は肉体的には彼女を支配しているのだが、実は精神的なレベルで彼女に支配され、追いつめられていく。そして裸の自分をさらけ出し、やがて彼女に耐えられずにいなくなっていく。これは同性でも同じ。彼女と関わると、よそ行きの自分ではなく、一番だらしない、素の姿をさらけ出されてしまう。

 で、そうやって回り中を不幸にしながら最後は本当に成功を手に収める訳だが、逆にそこでのシニカルさは更に増していく。男がいなければ寂しくてたまらないのに、男に何の幻想も抱いてないという彼女の姿勢が明らかにされていく。あのラストシーンは男としてため息が出てしまう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)りかちゅ[*] ジェリー[*] ナム太郎[*]

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