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[コメント] 終電車(1981/仏)

メロドラマ嫌いな私が何故かトリュフォー作品が大好きという矛盾。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 晩年に当たるトリュフォー監督が3年ぶりに発表した大作映画。フランスで大ヒットを記録し、すぐさま世界配信へとなった(。それまで不振にあえいでいたフランス映画界の起爆剤となり、フランス映画の復興が語られるようになる。

 事ある毎に書いているのだが、私はメロドラマが苦手。特に不倫ものとかは精神的な拒否感が否めない。

 で、ある友人と話していた時、トリュフォー映画の面白さを話している内に、その友人から「お前は矛盾してないか?」と言われてしまった。その時初めてトリュフォー映画って、実はまさにそう言う不倫を扱ったメロドラマが多いと言うことに気付いた次第。では何故こういう主題でもトリュフォー作品は拒否感無しに観られるのだろうか?

 ちょっとそれを考えてみると、私自身はトリュフォー作品をメロドラマとは全く思ってない。と言う事に尽きるのだろうと思う(土台言われて初めて気付いたくらいだから)。この人の描く主人公の姿はどこか何もかも突き放し、遠くからそれを眺めているようなタイプの人間ばかり。恋愛なんてどうせ永続的なものではないのだからと突き放して見ている。ところがその突き放しているはずの恋愛にのめり込んでしまい、そんな自分を自嘲的に笑っている。そんな感じ。これはトリュフォー自身を描いたというドワネルシリーズを観るとよく分かるけど、全ての作品にそのようなシニカルな笑いが込められてる。物語が恋の成就であろうと悲劇であろうと、やっぱりどこか醒めた目で自分自身を観ている視線があって、どんな人生であっても、突き放して見るとそれはどこか笑えるところがある。同じフランス人って事もあるが、バルザックの言う人間喜劇に通じるものがそこにはあるからじゃないだろうか…と、やっぱり自分を突き放して考えるとそう思える。

 実際、自分自身を突き放して考えて、偉そうな事を言ってる私自身が一番滑稽な存在である事は私が知ってる。その波動が合ってるんじゃないだろうか?

 本作は確かに大作映画で、時代性を取り入れたメロドラマと見られるかも知れないけど、本作の主役はなんだかんだ言ってもやっぱり隠れ住んでるルカにあるんじゃないだろうか。彼は表舞台に出る事は出来ないため、遠くから眺め、自分が出来る範囲で人間をコントロールしようとしているのだが、それが出来ない事をやっぱりよく分かっている人物。作品内では彼は狂言回し、コキュであるが、むしろだからこそ全てをよく知っている人間として描かれている。彼を中心に考えると、本作は実にトリュフォーらしさに溢れてる作品と思える。そうすると、最後まで何を考えてるか分からないドヌーヴ演じるマリオンも、「分からないからこそ面白い」と思えてしまう。

 こんな大作映画はトリュフォーらしくないという話も聞くけど、観方によっては、これほどトリュフォーらしい作品も無いし、恋愛作品と言うよりシニカルなコメディとして観る事が出来る。それが上手くはまったお陰で大好きな作品だ。舞台劇を上手く取り入れたケレン味たっぷりの演出も良し。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペペロンチーノ[*] ちわわ

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