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[コメント] 死霊のはらわた(1981/米)

ベースはあくまでも定番でありながら、すべての定石&お約束がことごとく「裏切られる」面白さ!この作品は、ホラー映画好きでたくさん数観た人ほど新鮮に楽しめるのでは。
はしぼそがらす

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画の世界において、80年代は血しぶきの時代といっても(一部のマニアには)過言ではないだろう。ルイスやロメロの子らが、「B級」という名の剣を携え、若い男女をばっさばっさと切り刻んでおまんまを稼いだ時代。悪魔やら死霊やらの、いけにえだったり、えじきだったり、はらわただったり、したたりだったりしたあの時代に、スプラッタ・ホラーはひとつのジャンルとして認知されるとともに、それらの映画に共通する数々の「定義」「お約束」も同時に確立されている。

この映画は、その時代の只中にあって、基本を踏まえつつも各所で(しかも物語の肝の部分で)それらのお約束をことごとく裏切ってくれるのである。

まず、ゾンビじゃないのな。DVDのジャケットに、山小屋で若者たちが知らずに死霊の甦る呪文を唱えてしまってさあ大変とかなんとか書いてあったから、てっきり毎度おなじみ生ける屍山小屋大包囲だと思っていたら、姿のない死霊(原題ではEvil Dead=悪霊)がワーと地を這って来て生きてる人にとり憑くってんだから驚いた。メリケンの方はどうか知らないが、日本人にとっては「形のない恐怖」はウーウー謡いながらフラフラ歩いてるゾンビらの100倍怖い。しかも何の脈絡もなく周りの木とか生きてるし。つまり、あの山小屋を包囲するのは、隙だらけの生ける屍ではなくて、なかなか踏み込んでこないくせに、明確に存在する「悪意」なるものなのだ。これが新鮮。

そして、一般にホラー映画で生き残るのは、他のアーパー娘よりちょっとおりこうな(あんまりグラマーじゃない)若い女の子なのが常識なのに、ここでは生き残るのはむさいデクノボーである。しかも、生存者(?)が彼一人になってからの話がやたら長い。これってある意味致命的じゃないですか?

若いおなごの超音波キャーキャーも苛立たしいが、この作品の後半なんて、顔がでかくて無駄に前髪の分厚いブルース・キャンベルが、お色気ショットも無しで、ただもうひたすらいろんなカメラワークで「あ゛ーっ!あ゛ーっ!」て………メジャーな作品だったらスポンサーの許可が絶対に下りなさそうな冒険(暴挙?)である。

他にも、一度プインと言わせただけで一切使わないチェーンソーとか、各犠牲者の感染ルートに全然統一性がない死霊のとり憑き方とか、人体の神秘を間違った方向で垣間見られる、とり憑かれた人たちの崩壊シーンとか(わけわからん粘土質の臓器満載。袖口からはおかゆ。口から牛乳。でもこれも、「死霊がとり憑いたら何起こるかわからんでしょ」という理由でかなりのところまでねじ伏せ可能。やるなあライミ)、細かいところでいちいち意表をつかれ、退屈している暇がない。

そしてその一方で、「お約束」もしっかり盛り込まれている。ドアはもどかしいほど開かないし、出るぞ出るぞと思っているとやっぱり手が出る(土の中とか、ドアにもたれた首周りとか)。だからこそ、予想を裏切られたときの驚きが大きいのだろう。

出来が良いからこそ、続編を見たくないホラー映画はたくさんあるが、この作品はその出来の良さ(むしろ出来の悪さを「良さ」として認識させてしまうそのパワー)ゆえに続編が観てみたくなる秀作であった。

なお、「わーい、サービスショットだー」と手を叩いて喜んだ、あの女体に枝巻きつきシーン、手づくりだからこそあの何ともいえないエッチっぽさと痛そうさが出たのだと思う。CGの枝が滑らかにしゅるしゅる巻きついたんじゃ全然興奮しないですよ。って何言ってんだわたしは。

(評価:★4)

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