[コメント] 父、帰る(2003/露)
映画を見終った人むけのレビューです。
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フィルムにしっかりとしみこんだ暗く深い海の色で始まるオープニング。あそこの気温はきっと、16度くらいしかないんだと、勝手に想像してしまうほど灰色がかった画面は、悲しい結末を暗示していたのだった。
父親にしろ、子どもたちにしろ、いったいどんな風にコミュニケーションをしたらいいのだろう?戸惑う気持ちがにじんだような、それでいて吸い込まれてしまいそうな、空と海。
かれがどこで何をしていたのか、何をしようとしているのか、せめてあたしたちには教えてくれたっていいのにさ。もしかして、そんな親子の語らいがあるのかもしれない...なんてかすかな期待も最後までもっていた。約束の時間を知りながら、つい遊んでしまう子どもたちに、「やっぱり、やっぱり、おい、早く帰れよー」と思い、心にふと覚えた小さな不安がじわじわと成長していく。
集合時間を大幅に遅刻して戻ってきた瞬間から、父の転落の瞬間まで、抑えていたみんなの感情がぱっとはじけて、一気に画面ごと走り出す。父親が怒るときの怖さを思い出すと、子どもたちのぴりぴりした気持ちがすごくよくわかる気がする。反発を感じながらも、腕力では絶対にかなわないイラつきや、暖かい大きな手を本当は求めている複雑な感情を、全身で表現する弟が不憫だ。
いつも冷静でいて、子どもたちを圧倒し、つけ入る隙を与えなかった父親だったけれど、かれらがどんな風に自分を受け入れてくれるのかいないのか、そんな不安の裏返しだったともいえる。小さなイワンの体当たりに面食らい、はじめて必死に子どもをつかまえようとした。彼は再び消え、ついに手の届かないところへいってしまった。
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