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[コメント] 父、帰る(2003/露)

12年もの不在のあと、”帰って”きた”父”との始めての旅。一言の説明もなく、なぞのオーラに包まれた父との旅は始まる。決して忘れることのできない夏休み。
kazby

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







フィルムにしっかりとしみこんだ暗く深い海の色で始まるオープニング。あそこの気温はきっと、16度くらいしかないんだと、勝手に想像してしまうほど灰色がかった画面は、悲しい結末を暗示していたのだった。

父親にしろ、子どもたちにしろ、いったいどんな風にコミュニケーションをしたらいいのだろう?戸惑う気持ちがにじんだような、それでいて吸い込まれてしまいそうな、空と海。

かれがどこで何をしていたのか、何をしようとしているのか、せめてあたしたちには教えてくれたっていいのにさ。もしかして、そんな親子の語らいがあるのかもしれない...なんてかすかな期待も最後までもっていた。約束の時間を知りながら、つい遊んでしまう子どもたちに、「やっぱり、やっぱり、おい、早く帰れよー」と思い、心にふと覚えた小さな不安がじわじわと成長していく。

集合時間を大幅に遅刻して戻ってきた瞬間から、父の転落の瞬間まで、抑えていたみんなの感情がぱっとはじけて、一気に画面ごと走り出す。父親が怒るときの怖さを思い出すと、子どもたちのぴりぴりした気持ちがすごくよくわかる気がする。反発を感じながらも、腕力では絶対にかなわないイラつきや、暖かい大きな手を本当は求めている複雑な感情を、全身で表現する弟が不憫だ。

いつも冷静でいて、子どもたちを圧倒し、つけ入る隙を与えなかった父親だったけれど、かれらがどんな風に自分を受け入れてくれるのかいないのか、そんな不安の裏返しだったともいえる。小さなイワンの体当たりに面食らい、はじめて必死に子どもをつかまえようとした。彼は再び消え、ついに手の届かないところへいってしまった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)TOMIMORI[*] ina makoto7774[*]

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