過去の作品との相性が悪い佐々部清監督作ということである程度の覚悟はできていたつもりだが、やはりこの作品は残念な出来だった。いや、あからさまに残念な作品だというのは麻生久美子ら素晴らしい仕事をした人達には大変失礼なことだとは思う。しかし、だからこそ、その素晴らしい仕事をそのまま素晴らしい映画へと昇華できなかった佐々部清の演出が残念なのだ。

例えば『チルソクの夏』でもそうだったが、今回も過去と現在を違う役者で演じさせるときの最低限の約束事である演技トーンの統一が全く図れていないため、本来重要な役であるはずの堺正章が浮いていて映画的にうまく機能していないところなどは正直観ているのが辛い。また、必要以上に美し過ぎる画（画調の美しさだけでなく、丁寧すぎる画作りを含めて）も違和感がありすぎてなかなか乗っていけず（特に昭和部分）、そのような中で展開されるドラマ、台詞からは上辺だけの映画という印象が拭えない。

とはいうものの、作品の出来とは切り離して、麻生久美子の演技の素晴らしさだけは長く記憶に留めておきたいと思う。であるから尚更彼女というこれ以上ない皆実役を得ておきながら、あの原作を何の恥じらいもなくこんなお涙頂戴モノに仕立ててしまえる佐々部清の感性が本当に理解できないのだ。