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[コメント] ノー・マンズ・ランド(2001/伊=英=ベルギー=仏=スロベニア)

今の日本人にはかなり重要かもしれない映画。「戦争出来ないなんておかしい」という主張がいよいよ力を増すご時世、でも本作はこういう言葉を投げかけてきているぞ、「戦争するなんておかしい」。
HW

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あ〜、また政治色を孕んでしまった・・・。きっと多くの方から「下らん事を言うな、左翼の馬鹿が!」「敵を前に発砲許可ももらえない自衛隊員の身にもなれ!」「北朝鮮のミサイルが飛んできてもそんな呑気な事を言ってるつもりか!」などという反応が帰って来るんだろうなぁ・・・。(笑)もちろん9条改憲論者を全面否定するわけじゃないんですよ、中には本当に国の現状、国民の将来を憂えて、説得力ある言葉で説く人々も多いと思う。しかし、ちょっと脇に目を移せば、戦争に変なロマンを抱いてしまっているらしい幼稚な某漫画家や、「日本は一度軍事政権にでもしないとダメだ」と(週刊誌では)語る某都知事とか、どうにも(個人的に)信用ならない人がいるのも事実だし、同時に代理戦力を求めるアメリカの思惑がある事も忘れてはいけないだろう。・・・より多くの人に読んでもらうべく避けるはずが・・・ますます政治色がぁ・・・。(滅

で、ようやく映画の方に話を戻すと、これは明快ながらも強いメッセージを持った傑作だ。全編、悲惨さが笑いになってしまう辛く痛々しいユーモアに包まれ、演出も確か。国連軍の装甲車が進んでいく時(検問所のシーンを含めて)の何とも間抜けた空気、利己的なマスコミの存在が‘救援’のキッカケを作り、同時に彼らの目の存在が悲惨な結末をも生んでしまう皮肉・・・決して複雑にせず、まっすぐ訴えられているメッセージは強かった。

ただ、少し惜しいと思うのが、あの三人の状況を作り出すまでの経過の描写にやや説得力が欠けた。何より、あの地雷を仕掛けるシーンに疑問がある。次に来るのはどちらか分からない中間地帯にあんな解除不能という罠を仕掛けるのは明らかに変だ。次に敵が来るとも限らないのに・・・。

あとはラストなのだが、あの二人が死ななければならないというのはあまりに映画として正攻法過ぎる気がして、もっと意外な方向に進むのではという期待があったのだが、それに応えてくれなかったのが残念。まぁ、その分かりきった悲劇にしか進む事が出来ない所に戦争の虚しさも感じられるのだが・・・。ただ、あのラストショットにはやられた。この映画のタイトルが“NO MAN’S LAND”であったという事を思い出させられ、とても印象的だった。タイトル自体鋭く、様々な意味を読み取れる。

上記のような少しながらの不満もあるが、全体としてかなり良い出来。テーマ性はハッキリしていて、「戦争は一体何のため?」という戦争の悲しいまでの馬鹿馬鹿しさがしっかり伝わってくる。「戦争」があちこちで語られる現代だが、この映画を見たからには、もはや「正義の戦争」やら「戦争の必要」「戦争の意味」を口にする連中を信じる事は出来ない。そういう映画だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)JKF[*] sawa:38[*] シーチキン[*]

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