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[コメント] 秘密と嘘(1996/英=仏)

「私は不幸だ。」(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少しオーバーリアクションだった気もするが、不幸にどっぷり浸かった主人公の中年女性の姿は説得力があった。目の前に不幸を脱するきっかけが現われたとしてもそれを拒み、わざわざ自分から不幸にすり寄っていく。そして愚痴をこぼす。「私は不幸だ」。

弟の家での、空気をまったく読まぬ主人公の告白。案の定、その告白は各人にいたずらに混乱を招き、当の本人は恥も外聞もなく惨めったらしく泣きわめく。ここでも自分で不幸を引き寄せていく。彼女の人生にとって転機が訪れていたにもかかわらず。

この話ではそうはならなかったが、これで全てが台無しになってしまうことだってある。私の父方の実家で毎年おこなわれていた新年会では、(職人系の血筋ゆえか)酔って誰かが不用意な発言をして誰かを怒らせ、いつも喧嘩別れに終わる。そんなこと言わなきゃいいのにと思っても、どうしても誰かが言ってしまう。そうならなきゃ気が済まないのだと思う(子どもの頃の私にはそれが耐え難かったが…)。父方の親戚間ではいまだに根深い禍根が残っていて、冠婚葬祭の時でも顔を出さない親戚がいる。そのきっかけは実はごくごく些細なことだったりする。でももうどうにもならないほど禍根は深く、そして長くなってしまっている。

それでも本作では、結果的に家族の絆は回復する。あのバーベキューの場で関係が急速に修復していくのは少し都合がよすぎる感もある(それはある程度のマイナス評価にはつながっている)。ただ、いくら主人公が勝手に不幸を引き寄せようとしていても、そうした空気を全部飲みこんでもなお彼女を底から救い出すだけの新しい風を、あの賢明な女性は吹かせたのだと思う。そういう意味で確かに母娘の出会いは天機であった。個人だけいくらあがいてもどうにもならないことが、人と人との出会いによってがらりと変わっていく(逆に転がる可能性が存在しつつも)。そういう可能性を示したこの作品の後味は悪くはなかった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)死ぬまでシネマ[*] 24[*]

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