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[コメント] 映画 聲の形(2016/日)

水彩画調でやさしい絵柄だが、内容は胸がえぐられるほど強烈。特に小学生編。ふと当時を懐かしくも少し震えた
ギスジ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







クラスで絶対的な存在のやんちゃな主人公。彼が右を向けばみんな右を向くし、彼がひどいあだ名を任命すれば、下手したらずっとそのあだ名を背負うくらい、力を持った子はどのクラスでもいるもんですよね。そんな中、転校してきた耳の聞こえない硝子。最初は女子のグループに属にて色々教えてもらったりしてたんですが、会話がダイレクトじゃないので、だんだんイライラする子が出始め、グループから孤立していき、それと同時に主人公から必要以上にイジメられるんです。特に度を超えて酷いのが、硝子の補聴器を耳から強引に奪い取り「気持ち悪りー」なんか言われながら何度も捨てられたりするんです。たしか驚くほど高価なモノだと聞いてます。しかし小学生には普通の耳栓ですよね。また硝子も嫌なことをされても、耐えしのぎながらの平気な顔をするもんですから、余計イジメがエスカレートしていきます。それを見かねた担任ではない先生が(なんで担任がしないんだよ!)「手話を覚えましょう!」と進めるが、まったく乗り気ではないクラスの空気感が、とても可愛そうでした。「やりたくないんですけど。」という言葉が硝子に聞こえてなくてよかったなと思いました。そんな状況に「私がやります」と勇気を振り絞って言った子はソッコーでハブられ、転校していくんです。あの子は相当可愛そうでした。周りよりほんの少しだけの勇気があったから招いた悲劇でした。たぶんクラスのみんなも覚えた方がいいに決まってる。それは分かるんだが目の前に「やりたくねー」と言ってるリーダー的存在の女の子が言ったら言えないよな。

相当のイジメを耐えてきた硝子もいつしか転校してしまい、クラスに前のような平穏な日々が訪れるかとおもいきや、今まで存在感の薄かった担任が、硝子のイジメ問題に「お前がやったんだろ。うぉらー!!」と急に大人の圧力を使い、主人公を追い詰めるんです。怒号が教室を響きわたり、生徒全員を一瞬で凍らせる「シーン」としたなんとも言えない感じは、僕も小学生時代を思い出し嫌な気分になりました。今まで絶対的な王だった主人公が、地位と尊厳が一瞬で崩壊する瞬間でもありました。主人公ですら気づいていないくらい、一瞬を見事に描いたシーンでした。

本来、いじめっ子の立場が逆転する瞬間は「ざまぁ感」があって愉快で楽しいのですが、この映画では「ざまぁ感」を楽しむ映画ではなかったです。たしかに主人公は硝子に酷いことしたんだけど、周りのみんなも加担して調子に乗っちゃった結末で、やんちゃなごく普通の小学生なんです。それでも主人公が硝子にやらかした代償は大きく、事実を知った母親は絶句し主人公を車に乗せ、足早に最寄りのATMで大金をお下ろしてる母親の姿を助手席越しで見るんです。その視線は小学生ながらに事が大きくなってきた不安感をとても出している素晴らしいシーンでした。正直、京都アニメーションでこんな内容を観せられるとは思いもしませんでした。意外なセレクトの「マイ・ジェネレーション」で極太なオープニングを聞かせ、高揚感に浸ってた僕が懐かしいくらいの主人公の変貌ぶりは凄いなと思いました。

あれだけ強烈なインパクトを放った前半ですが、この映画の本質はここからで、牙の抜かれた主人公が、硝子に贖罪していくいう展開になるんです。どの面下げて硝子に合うんだろう。僕なら穏便にできるだけ会いたくないな。しかし主人公は会うことを決意する。きっと夢にも何度も出てきたんでしょう。主人公は、硝子に贖罪する意味で「手話」を取得していたんです。主人公の思いは相当なモノだと感じました。ためらいながらも、意を決して会うと硝子はあっけらかんとして「久しぶり!」みたいな感じなんです。なんていうか拍子抜けでした。僕は最初、硝子は何故平常にしてられるんだろう?と思いました。個人的には、主人公と硝子に葛藤らしき?シーンを望んだんですが、当の硝子があっさりしてるんだからしょうがないよね。それから硝子の妹に何度か合うことを阻止されるも、自然と二人は仲良くなっていくんです。その流れで疎遠だった同級生と合ったりするんです。主人公に思いを寄せてた女の子や、硝子を守るためにハブられた女の子も5年ぶりに再開するのです。ハブられた子も「ああ・・ひさしぶり!」と当時いじめられてた子達に笑顔で返すんです。僕は小学生の時にいじめられてた子に久々に会って「ひさしぶり!元気だった?」と引きつった笑顔で返した事を思い出した。

この映画は硝子に対する贖罪の映画と思いきや、当時イジメに間接的に加担してた子達が数年ぶりに会い、お互いの思いをぶつけ合い、あの事件以来耳や目を塞いでいた主人公が、自立していくというお話になっていました。正直、硝子の関係修復だけでも大したものだと思うんですが、その周辺の子らも同時に修復改善へ導こうとする展開に、「そこまでやる?」と思った。小学生編の丁寧な描写が、高校生編になるとちょっとついて行けなくなる描写や展開にはなるんですが、それにしても挑戦的な作品だと思います。この映画を観てイジメ問題が減るとも思わないし「イジメ絶対だめ!」的な簡単な映画でも無いと思いました。誰しもが軽いイジメやイジメられた経験があるであろう義務教育の時期に、イジメに対する対処法や防御策なんかたまに考えたりするんですが、解決法なんてやっぱり無いよなぁ。その場の空気を読んで状況に対応しろとしか言えない。しかも障害者の硝子ちゃんなんか確実にイジメられるじゃないですか。助けたいという気持ちより、うざいが勝っちゃう年頃じゃないですか。ただ、その後の贖罪はなかなかできるものじゃない。僕は主人公が硝子ちゃんに、面と向かって会いに行ったシーンを観ただけで満足なんです

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)おーい粗茶[*] てれぐのしす[*]

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