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[コメント] ホリデイ(2006/米)

女性監督ナンシー・メイヤーズの女性らしい視点が、僕にはすごく新鮮に思えた。だが逆に、その視点によるズレも感じてしまった。良い映画だが、褒めるのが照れくさいほど好みとはズレる。(2007.03.25.)
Keita

**ネタバレ注意**
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恋愛コメディでもあり、恋愛ドラマでもあり、「普通の恋愛映画じゃ物足りない!」と感じる観客なら、バランスが良いまろやかなテイストのこの映画は楽しめるだろう。

台詞が丁寧かつ、ユーモアにも満ちている脚本に魅力を感じ、楽しみながら観ることができた。『ブリジッド・ジョーンズの日記』や『ラブ・アクチュアリー』が好きな女性のストライクゾーンをつくウェルメイドな映画で、人にも薦めやすい。

ナンシー・メイヤーズは前作『恋愛適齢期』が非常に面白かったが、この作品も女性監督ならではの視点で、的を得た作りをしている。男性にはない視点がしっかり入っている分、新鮮味を感じられるのだ。

ホーム・エクスチェンジという魅力的な導入設定だが、これは男同士だったら絶対にあり得ないだろう! 男の傷心旅行だったら、もっと孤独を追求してさすらうような展開になるはずだが、女性の傷心旅行はなんだか全然違う。恋愛で深い傷を負っているのだが、どこかサバサバしている感じ。男の方がもっとウジウジしている。もともと、感情移入をしようと思って観ていないのもあり、客観的に見ていくと、ふとした部分の男女の性格の違いが、感覚的に面白く感じられるのだ。

この映画で、何といっても魅力的だったのはジュード・ロウ。今回の彼の魅力は、女性監督だったから出せたものではないだろうか。

貴公子・ジュードのようなイケメン男性が、突然現れて、一夜を共にして、他の女性の存在に緊張もさせられるが、実は妻と死別した二児の父だったことがわかり、その彼からそれでも「愛している」と真剣な眼差しで言われてしまう…。これは、女性が素敵な男性にこうしてほしい、という妄想的欲求を描いたものではないか! しかも、その対象を演じるのが、ジュード・ロウなのだから、それは眩しいに決まっている。キャメロン・ディアス側の休暇は、ある意味、ファンタジーなのだと思う。スキのない理想を映画で眺める… それは女性観客にとって“ホリデイ”となる。

逆にケイト・ウィンスレット側の休暇は、キャメロン側よりも現実的な部分が多い。自分を見つめ直す機会も多く、しかもそこには大失恋を経験した人なら頷いてしまうような感情が出てくる。ファンタジーも“ホリデイ”の過ごし方なのだけれども、自分を見つめ直すリアリティも“ホリデイ”の過ごし方なのだ。

このふたりの女性を対比しつつ、共通性を見出しながら描いていく。ひとりは本気で笑うまでの過程を、ひとりは本気で泣くまでの過程を。そのようにふたりの女性が描かれるわけだが、この表裏一体の関係、実はひとりの女性を描いているようでもある。うまく、すべての女性に通じるような普遍性を持たせているのだ。(ちなみに、「泣く」というキーワードで見ると、ナンシー・メイヤーズは『恋愛適齢期』ではダイアン・キートンにうぁんうぁん泣かせていたのが印象的だったし、この『ホリデイ』でのキャメロンの物語はそこに共通する部分があったと思う。)

ただ、僕はラストの展開がしっくり来ないのだ。なぜかと言うと、休暇を終えて、ひとつ前の恋から抜け出して、もとの生活で強くなった姿を見たかったからである。現実が見たかった、ということだ。自分探しの旅であるならば、そこまで見せてこそ成長が感じられるのだと思う。だが、この映画がそれをしなかったのは、現実を見せることよりも、爽快な余韻を残したかったからなのだと思う。この映画を観る観客の求めているところへ、うまく着地していったのだ。

ラストシーンでもキャメロンとケイトを最後まで交わらせてほしくなかったとか、終わるべき休暇を終わらせなかったことが不満とか、そういうことを感じる僕のような観客の方が、むしろナンセンスなのかもしれない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)ナム太郎[*] The★黒 Sungoo わっこ[*] セント[*] プロデューサーX[*] 狸の尻尾[*] じょばんに

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