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[コメント] 七小福(1988/香港)

この映画以来ワイアー・アクション映画をたくさん観ました。香港のアクションものって、京劇のアクションが下敷きになっていることに気づいたんです。
Amandla!

 あらすじには「かなりフィクションを加えて(詩的に、ともいうのかな?)描いた作品」な〜んて書きました。別の言葉で言えば「心温まる」ということになるんでしょうか。オマージュという言葉もそういう意味で使いました。もっと言い換えれば、素直なホームドラマ、あるいはいわば文芸映画(?)風といってもいいかも。口当たりがいいんです。脱カンフー世代の映画作家の作品、ということで評判になったとか。

 成龍(ジャッキー・チェン)が批判したのも、そんな部分が気に入らなかったんでしょう。彼の「この映画は観る気になれない」という趣旨の文章を見かけたことがあります。「冗談じゃない、こんな綺麗事だったか? 死ぬ思いだったぞ、あの時代は思いだすだけでも辛い…」。大甘だ、と言いたいんでしょう。そのあたりはちょっと割り引く必要あり。でも、いま米国で活躍している成龍洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の見事なアクションは、こんなにも厳しい修行あってのことなんだな、と納得できる場面がたくさんあります。

 洪金寶は、この映画を作る許可をもらいに、わざわざ渡米し、ロス・アンジェルスの于占元(ユー・ジムユェン)先生に挨拶までしたといいます。律儀で師匠思いの洪金寶の性格を物語るエピソードではありませんか。実際洪金寶は先生役を熱演しています。もちろんとても厳しい先生として描かれているんですが、同時に人間味あふれる面も見せ、いまなお師匠を慕う彼の思いが滲み出た役作りが印象的でした。

 出てくる子どもたちのかわいいこと! 繁華街の劇場へ公演のために移動する途中、同世代の子どもたちから嘲られたときのケンカとか、公演失敗のお仕置きとして食事抜きを命じられシュンとするところとか、空腹のあまり隣家の食べ物を盗んで料理しているところを先生に見つかって、またお仕置きを受けるとか……そんなエピソードがたくさん描かれます。邦題の副題「夢に生きた子供たち」というのはここからつけられたんでしょう。

 一転して青春時代、今度は青春ドラマに早変わり。青年になった彼らもやはりビートルズやエレキギターの洗礼を受け、淡い恋心も。時代の移り変わりで京劇が下火になると、学院の経営は厳しくなりますね。一緒に協力して伝統芸能の維持を図ろうと登場した女性だけの集団、広東歌劇団の先生役として出てくるのが、『グリーン・デスティニー』(『臥虎藏龍』)にも出てくる鄭佩佩(チェン・ペイペイ)。まだ若い〜!

 伝統芸能の維持なんていっても多寡が知れてます。そんなもので学院は維持できません。当時興隆を始めた映画、それもアクションの修行を積んだ彼らにこそできるスタントを手掛けることになります。といってもスタントは危険な仕事。その割には収入は少ない。その危険な仕事にまつわる話が後半に出てきます 。ここもみどころです。

 ちょっと腑に落ちないのはこの映画に出てきた子どもたちは、やっぱり京劇の修行を積んでいる、しっかり訓練を受けているんです。下火になったといってもやはり、それなりの人気はあるみたい。わたしのあらすじに書いたように、その後も京劇の映画はいくつも作られていますから。

 この映画に出会うことによって、カンフーやワイアー・アクション映画をよく観るようになりました。「どうせ乱闘だろ」と思ってたの。食わず嫌いだったんですが、カンフーやワイアー・アクションも京劇の振り付けのようなアクションの美しさが売りなんだと気づいたからです。それはもう沢山観ましたよ。観てきた分だけ『臥虎藏龍』(『グリーン・デスティニー』)のアクション・シーンは堪能できたと思ってます。ワイアー・アクションはいまや香港だけでなくハリウッド映画でも盛んに使われるようになりましたからね。そういう意味でも、おすすめです。

 ホームドラマですから、ヴィデオで十分だと思います。

蛇足:ずいぶん多くの人に薦めたんですが、白い目されることも多かった。「大甘」って顔で。それまで薦めた映画がヴェンダース、アンゲロプロス、ブラームス、エゴヤン、侯孝賢、蔡明亮とかだったから?……。めげずに洪金寶を欠かさず観に行く話をしたらますます白い目。論文も読むけど、マンガも読むじゃん、ねぇ。

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おまけ:関連サイト

The Official SAMMOHUNG.COM (「洪金寶的世界」英語、ロシア語、日本語)→http://www.sammohung.com/

Jackie Chan Action Club (日本語ファンサイト)→http://www.stareastnet.com/tc/artist/jackieclub/jap/main.jsp

Official Jackie Chan Fan Club, USA→http://www.jackiechanfans.com/

Jackie Chan Files (中に「七小福のメンバーたち」ページと、成龍関連リンク多数あり)→ http://www2u.biglobe.ne.jp/~umehara/jc/

(評価:★4)

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