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[コメント] ガタカ(1997/米)

今更ガタカにガタガタ言っても仕カタガ無いのダガ……
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 私事で自分にとってのSFやら特撮映画やらを考えさせられる事態が発生したので、整理のために書いてみたい。書かせてください。

 一年ぐらい前、この映画と『妖星ゴラス』という特撮映画をめぐり相方と大喧嘩した。何で『妖星ゴラス』? そもそも『妖星ゴラス』って何? って思うかもしれないが、まあ、同じ「ロケットに乗る」話が出てくる映画だ。「ロケットに乗る」話が出てくるんだから、並べて語ってもいい、シロクロつけてもいい、ゴラスでガタカをぺしゃんこにしてもいいと思ったのだが、良くなかった。

 殴り合いや激論の末にどうにかこうにか辿り着いた結論としては、同じ『ガタカ』という映画を見ているはずなのに、二人はまったく違うものを見ていたということだ。

 相方が見ていたのは、イーサン・ホーク扮する主人公の葛藤だった。ウホッ……こうして書いてみると、これ至極当然のことで、それ以外にこのパッケージングの映画どう見ればいいんだと思えてくるから不思議だ。不思議なんだが、自分にはイーサン・ホークが、世界一周旅行に出かけて方々で撮ったホームビデオを見せてくれるのはいいが、絶えずフレームの中心にどっかり笑顔でひたすらピースを繰り返すスネオのように見えたのだ。

 これが青春映画であれば、自分も相方と同じ視線で見たかもしれない。ところがこの映画には、未来都市が出てくる、ロケットが出てくる。都市がどういう構造になっているのか、街の人々はどのようなのか、あのロケットはどんな動力なのか、そしてあのロケットが向かった先はどうなっているのか、それが気になりだしたらもう止まらない。なのに見えない、良く見えないんだよその部分が、ええい邪魔だ、どけっ! イーサンどけ!……って思うでしょう?ええ、思わない?

 思わないんだということが、俺は信じられなかったのだが、この映画を好む多くの方がフレームの外がどうなっているのかを気にせず楽しんでおられるのだ。語弊を恐れず言うならば、主人公の葛藤を我々のそれに置き換え鑑賞するべく、この映画のSF的な舞台設定を暗喩的なものとして呑んでいる。そして、さらに誤解を恐れず言うならば、ここからはある意味、自分と共通している、ある意味反しているのだが、この映画のフレームの外には何も無い、未来都市は張りぼてだし、ロケットの行き先なんざ作者は想像さえしちゃいない、という事を承知している……というよりフレームの外は無い、必要ないと思っているのだ。

 自分は、フレームの外は無くてはならないと思い込んでいたし、実は今も思っているのだが、一方で思い直しもした……子供だったな! 『ガタカ』を好む人にとって重要なのは、主人公の葛藤。自分もそのテーマである劣等感を真っ直ぐに見つめよう……なるほど『ガタカ』は痛切な物語である。

 ただ、それを認めた上でなお思うのだ。劣等感は痛切だ、痛切なんだが、案外ちっぽけな問題じゃないの、と。

 前述の『妖星ゴラス』にこんなシーンが出てくる。真っ赤に燃える妖星が地球めがけて飛んで来る。地球消滅の危機を回避しようと、ゴラス観測のためにロケットが打ち上げられる。そして、そのロケットから小型艇が放たれ、ゴラスに最接近する。そこで、搭乗員の金井さんは見る。真っ赤に猛り狂うゴラスのはらわたを見る。それを見た金井さんは、「こんなもの、どうすりゃいいんだ……!」そう思ってしまったが最後、昏倒する。全人類の代わりに記憶喪失となる。彼はロケットの搭乗員だが、エリートという感じではなく、私生活ではどこか盆暗の臭いさえする、普通に仕事や女に葛藤を抱える、いわば俺たちだった。しかし、彼が抱えていた葛藤は、ゴラスを見て吹き飛んでしまった。今まで人類が信じてきたものが根底から覆されるとてつもない力を見て、消し飛んでしまったのだ。このシーンは『妖星ゴラス』という映画のはらわただと言える。

 自分は『ガタカ』の主人公に負けず劣らずな劣等感やコンプレックスを抱えている口だと思う。どっちの方が深刻かなんて話はつまらない。おんなじように劣等感を抱えて生きてきた自分だが、子供の頃から、SFやら特撮やら怪獣やらのことを考えている時だけは、そこから開放された。だだっ広い宇宙だとか、馬鹿でかい怪獣のことを考え、それが目の前に迫る光景を、目を閉じ、想像してみる。もしも、本当にそれを目の当たりにしたら、自分があまりにちっぽけだと痛感し、きっと涙が出るだろう。ただただ圧倒され、押しつぶされる最後の瞬間まで瞬きもせず見上げているだろう。圧倒的な何かに出会った時、人は限りなく平等にちっぽけとなり、それをただ見つめるという特権が欲する者に与えられる。それに出会うことに勝る特権などこの世にあるだろうか? 地位も金も消し飛ぶ。俺はそれが見たい。それが見たくてSFや特撮を追いかけている。なあ、ヴィンセント、同じ苦悩を抱えるヴィンセント。でも、君にはそんな世界があり、ロケットがある。君は何故ロケットに乗る? 劣等の克服を証明するため? それはそれとして、宇宙に行って何を思う? 土星に行って何が見たい?

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)G31[*] YO--CHAN[*] uyo[*]

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